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喜寿司

丁寧な仕事が光る江戸前の味

人形町で伝統の味を守り続ける「喜寿司」。この店ならではの味を目当てに、遠くから足を運ぶファンも多い。夜と同じ食材を使った、ちょっと贅沢なおひるごはんをご紹介。

老舗の風格が漂う静かな店内。ゆったりと寿司を楽しむ人々が、新鮮な旬のタネ、昔ながらの繊細な仕事に舌鼓を打つ。

明治後半、柳橋に店を構えていた喜寿司のご長男が、この地に店を開いたのが始まり。「昔は花街の名前を呼び名に使っていましたから、“芳町の喜寿司”と言われていました」と話すのは三代目の油井隆一さん。

喜寿司の味といえばなんといっても、江戸前ならではの隠れた仕事が入った握り。酢でしめたこはだ、いかや穴子の煮たもの、煮はまぐりなどは常連客に人気だ。いかや穴子に添える「つめ」は、穴子の頭や中骨に鰹節や昆布、大根やにんじんを加えて24時間体制で煮る。大きな鍋を使い、最後には小さな鍋になるまで煮詰めていくのだという。「手間がかかるので、こういったつくり方をするところは減っていますね」。鮪やかじきには煮きりが引かれ、形が独特な玉子焼きには、芝海老のおぼろが挟んである。

 魚は海老を除いて、すべて天然もの。それはお昼のメニューでも変わらない。「昼と夜で材料に差をつけたくないんです」。酢飯には米酢と酒粕からつくった赤酢を合わせ、塩を加えている。砂糖は一切使わないため、すっきりとした味だ。海苔も厳選し、佐賀産のものを使っている。

 「お客さまには楽な雰囲気で食べていただきたい。思う存分召し上がっていただくもよし、レストランの帰りに2~3貫ちょこっとつまむもよし。お寿司はそれぞれお好きな召し上がり方でいいと思っています」。上質な食材と伝統の技がリーズナブルにいただけるお昼。ぜひ夜デビューの前に試してみたい。

※店名の「喜」は、正しくは「七」が三つの漢字

店舗情報

店名喜寿司(きずし)
住所東京都中央区日本橋人形町2-7-13
TEL03-3666-1682

日本橋ごよみ2011年05月【第7号】