株式会社 木屋 代表取締役 加藤 欣也 氏

2014年03月号【第41号】

先人たちが築いた暖簾を自分はどう次へ繋げていくのか

日本橋に縁の深い人たちにご登場いただく「まち・ひと・こころ 日本橋福徳塾」。第40回は、寛政4年(1792年)創業の刃物店、木屋 九代目当主の加藤欣也氏。江戸時代から現代に至るまで、時代に合わせて少しずつ取り扱う商品を変化させ、暖簾を守ってきた。222年続く店の歴史について、また日本橋への想いについてうかがった。



江戸日本橋にずらりと並んだ紺色の暖簾たち

 刃物の木屋の創業は寛政4年(1792年)に遡る。伊勢桑名生まれの初代・加藤伊助氏が江戸に出て、漆器屋木屋に丁稚奉公をした。木屋には暖簾分けを行う際に“本家と同じ商品を扱ってはいけない”という決まりがあったことから、刃物屋として独立したのだという。江戸時代、将軍家をはじめ諸大名の恩顧を受けて栄えた木屋は、打刃物木屋、三味線木屋、小間物木屋、象牙木屋などが軒を連ね、明治期の文献には「室町に花咲く木屋の紺暖簾」と呼ばれたという記述も残っている。

加藤 欣也 氏 1955年生まれ。駒場高校から学習院大学文学部ドイツ文学科に進学し、卒業後は三越に入社。1984年に家業に入り、2009年に代表取締役に就任する。子ども時代の思い出の場所は、三越の天女像前にあったベンチ。両親が買い物する間、飽きずに像を眺めていたという。
 

 そんな中、刃物屋木屋は、火事の多かった江戸時代には大工工具を扱い、戦後に裁縫が流行した際にはピンキング鋏に力を入れ、昭和30年代には芝刈り機を店頭に置くなど、時代の風を読み取りながら商いを続けてきた。「いま、日本橋で木屋の名を残すのはうちと木ノ葉画廊だけ。偶然にも高校の先輩なんですよ」と加藤氏は教えてくれた。



予想もしていなかった跡取りへの道

 高校時代には野球部の主将として活躍し、大学時代には文学を学んでいたという加藤氏は、三男ということもあり、店を継ぐことは想像していなかったという。「好きなことばかりしていました。いずれは学校の先生か詩人、小説家になろうと考えていたんです」。卒業後に三越へ入社するが、3年ほど経った頃、七代目であるお父様のすすめで家業に入ることに。

新婚当初から加藤氏宅でも愛用しているという、木屋を代表する包丁『エーデルワイス』。耐蝕と靭性が高く、硬質で切れ味が優れた逸品。研ぎやすく、刃こぼれしにくいという特徴を持つ。写真は最高品質を誇るNo.160で、刃渡り約110~250mmの種類があるツバ付。

「将来、跡を継げと言われてね。一国一城の主になるのも悪くないかと思ったんですが、入ってみたら百貨店とは商売の仕方が全く違って、カルチャーショックを受けました。ストレスで胃を痛めたこともありましたね」。

 1992年に七代目が死去し、叔父である俊男氏が八代目となった。時を同じくして、戦後の木屋を支えてくれた人たちが次々に定年退職し、加藤氏の責任も大きくなっていったという。「営業や銀行との取引なども担当するようになりました。店舗の引っ越しが決まったのもこの頃です」。そして2009年、九代目当主に就任する。

本店店長の金子正明氏は、この道40年余りのベテラン。洋包丁、和包丁などを研ぐほか、使う人の目的や好みに合わせて微調整も行う。

いまも昔も変わらない木屋の風土とは

 2010年のコレド室町オープンに伴い、木屋本店はビル内に移転した。「旧店舗を閉める際、たくさんのお客さまからご声援を賜りました。長く日本橋の街で商売を続けさせていただき、この街に育てていただいたことを深く実感しました」。暖簾の重さを再認識し、身が引き締まる思いだったと加藤氏は振り返る。木屋は戦前まで小売店だったが、戦後になって包丁メーカーとしての歩みが始まり、百貨店との取引が拡大した。「いまの木屋があるのは、その頃に礎をつくってくれた先人たちのおかげ。私はまだ道半ばで、次の時代にどのように襷を繋いでいくか模索している最中なんです」。

コレド室町1階にある本店。取り扱う刃物は調理用ばかりでなく、グルーミング、ガーデニング、手工芸用などと幅広い。

 木屋の男性社員は入社して何年かすると、みな包丁が研げるようになるという。それは誰かに教わるからではなく、自発的に先輩の姿を見て覚えていくからだ。「女性でも研げる人がいます。うちの社員はとにかくみんな真面目です」。質の高い商品とメンテナンスにおける確かな技術力。店の刻印のあるものなら、いつの時代の商品でも修理する(修理が可能であれば)というのも木屋らしさといえるだろう。「私自身、父から受け継いだ洋鋏を40年愛用しています。親から子へと伝わっていく道具の温かさを、これからも伝えていきたと思っています」。

ノミやカンナ、散髪鋏などの専門の職人に喜ばれる刃物類も充実している。
DATA

日本橋 木屋
東京都中央区日本橋室町2-2-1 コレド室町1 1階
☎ 03-3241-0110
www.kiya-hamono.co.jp