新川屋佐々木酒店 三代目/甘酒横丁商店会 会長 佐々木誠治 氏

2013年04月号【第30号】

人情の町、人形町には人生を豊かにする美味しい酒がある

日本橋に縁の深い人たちにご登場いただく「まち・ひと・こころ 日本橋福徳塾」。第29回は、新川屋佐々木酒店・三代目の佐々木誠治氏。まもなく創業100年を迎える新川屋佐々木酒店は、大正期の始めから現在まで、人形町の人々の暮らしとともに歩んできた。この町で生まれ育った佐々木氏に、町の移り変わりについて、甘酒横丁商店会の活動についてお話をうかがった。


時代は変わっても人の繋がりは変わらない

 かつて芝居の町、料亭が建ち並ぶ花街として賑わった人形町。その名残をとどめる町並みは、いまも人々を魅了してやまない。大正4年(1915年)頃に創業した新川屋佐々木酒店は、誠治氏で三代目。富山県から上京してきたお祖父さまが新川の酒問屋に勤めながら、お祖母さまとともに雑貨商を営んだのが始まりだという。屋号は勤め先の地名にちなんだものだ。「子どもの頃には芸者置屋が何軒もあったんですよ。映画館や寄席、力道山の道場もあったりして、結構な繁華街でした」と佐々木氏は教えてくれた。「私は学校も近くだったから、ちょっと外に出ると大人たちから“新川屋の息子”と呼ばれてね。人形町では、ある程度の年齢になっても“○○の息子” って呼ばれちゃうんですから(笑)」。
 昭和45年からは、店の並びにある交差点の角で居酒屋「笹新」も営み、連日、愛酒家で賑わっている。カウンターの大皿料理や河岸で仕入れる刺身などが名物で、酒店で取り扱うものならメニューにない銘柄でも注文できるという。

「店の仕事より商店会の仕事の方を一生懸命やっていると、よく妻に言われるんです」と微笑む佐々木氏。

佐々木誠治氏 1948年、人形町生まれ。中央区立久松小学校から久松中学校へ進み、白鴎高校を卒業。中央大学経済学部在学中より家業を手伝う。現在はご家族、スタッフとともに店を切り盛りする。毎晩、日本酒をたしなむのが楽しみ。お気に入りは佐々木酒店と創業年が同じ富美菊酒造の『羽根屋』。
 

珍しい日本酒とお手頃なワインを集めて

 昭和の頃は、酒屋にビールや日本酒とともに味噌や醤油などの調味料を家まで運んでもらうのが日常の姿だったが、時代とともにその様子も変わってきた。「2001年に酒類販売の免許制が緩和されて、いまはほぼ自由化しています。スーパーや大型量販店が発泡酒の人気とともに台頭してきたことで、一般の酒屋は厳しくなってきました。その頃からうちでは、日本酒とワインに力を入れるようになったんです」。四代目の息子さんが蔵元に足を運び、他店では扱えない珍しい酒も取り揃えている。日本酒の普及にも努め、年に2回、懐石料理「きく家」の離れを借りて試飲会を開催している。「きく家」の女将が佐々木氏の高校の先輩という縁で実現したもので、参加者の年齢層は幅広く、女性客も多いそう。「この町は昔から人と人との繋がりが強いんですよ」。
 また、ボジョレ・ヌーボーの解禁日には午前0時とともに“いち早く飲む会”を開催。もともとは仲間内の小規模な会だったが、いまでは50名以上が参加する盛況ぶりだ。

毎年、桜の開花時期に合わせて開催している甘酒横丁商店会の「桜まつり」。福引きのほか、無料で甘酒も振る舞われる。今年は3月31日(日)開催予定。

これまでもこれからも温かみのある町でありたい

 5年前、甘酒横丁では「甘酒横丁商店会」を発足した。佐々木氏は初年度から会長を務め、活動をまとめている。「いちばんの目的は、甘酒横丁を広く知っていただくこと。そして感謝の気持ちを形に変えて、お客さまに還元したいと考えています」。そのメインとなるのが「桜まつり」だ。甘酒横丁に交差する浜町緑道にソメイヨシノや大島桜があることから、毎年開花日に合わせて開催している。
「東京スカイツリー®が開業して、下町に注目が集まっています。その中でも人形町は歴史と文化が詰まった町。商店街には昔ながらの生活感も溢れていますしね」。町を散策する人々によく言われるのが“ここに来るとほっとする”という言葉だとか。「みなさん下町情緒を楽しみに来てくださるのですから、その期待に応えられるよう、温かみのある町づくりをしなければと思っているんです」。どんな世代が訪れても心和む町。おおらかな町の空気はいまも昔も変わらない。

左/酒粕ではなく麹からつくる本格的な甘酒『おこめ姫』。ノンアルコールなので、赤ちゃんや妊婦さんも安心して飲める。
右/(右から)富山県の富美菊酒造『羽根屋』は限定流通の貴重な品で、豊かな味わいとすっきりとした飲み口が特徴。親子二人で酒造りに励む三重県早川酒造の『早春』、宮城県金の井酒造の『綿屋』もおすすめ。
DATA

新川屋佐々木酒店
東京都中央区日本橋人形町2-20-3
☎ 03-3666-7662
www.sasas.jp