日本橋に縁の深い人たちにご登場いただく「まち・ひと・こころ 日本橋福徳塾」。第29回は、新川屋佐々木酒店・三代目の佐々木誠治氏。まもなく創業100年を迎える新川屋佐々木酒店は、大正期の始めから現在まで、人形町の人々の暮らしとともに歩んできた。この町で生まれ育った佐々木氏に、町の移り変わりについて、甘酒横丁商店会の活動についてお話をうかがった。
かつて芝居の町、料亭が建ち並ぶ花街として賑わった人形町。その名残をとどめる町並みは、いまも人々を魅了してやまない。大正4年(1915年)頃に創業した新川屋佐々木酒店は、誠治氏で三代目。富山県から上京してきたお祖父さまが新川の酒問屋に勤めながら、お祖母さまとともに雑貨商を営んだのが始まりだという。屋号は勤め先の地名にちなんだものだ。「子どもの頃には芸者置屋が何軒もあったんですよ。映画館や寄席、力道山の道場もあったりして、結構な繁華街でした」と佐々木氏は教えてくれた。「私は学校も近くだったから、ちょっと外に出ると大人たちから“新川屋の息子”と呼ばれてね。人形町では、ある程度の年齢になっても“○○の息子” って呼ばれちゃうんですから(笑)」。
昭和45年からは、店の並びにある交差点の角で居酒屋「笹新」も営み、連日、愛酒家で賑わっている。カウンターの大皿料理や河岸で仕入れる刺身などが名物で、酒店で取り扱うものならメニューにない銘柄でも注文できるという。
昭和の頃は、酒屋にビールや日本酒とともに味噌や醤油などの調味料を家まで運んでもらうのが日常の姿だったが、時代とともにその様子も変わってきた。「2001年に酒類販売の免許制が緩和されて、いまはほぼ自由化しています。スーパーや大型量販店が発泡酒の人気とともに台頭してきたことで、一般の酒屋は厳しくなってきました。その頃からうちでは、日本酒とワインに力を入れるようになったんです」。四代目の息子さんが蔵元に足を運び、他店では扱えない珍しい酒も取り揃えている。日本酒の普及にも努め、年に2回、懐石料理「きく家」の離れを借りて試飲会を開催している。「きく家」の女将が佐々木氏の高校の先輩という縁で実現したもので、参加者の年齢層は幅広く、女性客も多いそう。「この町は昔から人と人との繋がりが強いんですよ」。
また、ボジョレ・ヌーボーの解禁日には午前0時とともに“いち早く飲む会”を開催。もともとは仲間内の小規模な会だったが、いまでは50名以上が参加する盛況ぶりだ。
5年前、甘酒横丁では「甘酒横丁商店会」を発足した。佐々木氏は初年度から会長を務め、活動をまとめている。「いちばんの目的は、甘酒横丁を広く知っていただくこと。そして感謝の気持ちを形に変えて、お客さまに還元したいと考えています」。そのメインとなるのが「桜まつり」だ。甘酒横丁に交差する浜町緑道にソメイヨシノや大島桜があることから、毎年開花日に合わせて開催している。
「東京スカイツリー®が開業して、下町に注目が集まっています。その中でも人形町は歴史と文化が詰まった町。商店街には昔ながらの生活感も溢れていますしね」。町を散策する人々によく言われるのが“ここに来るとほっとする”という言葉だとか。「みなさん下町情緒を楽しみに来てくださるのですから、その期待に応えられるよう、温かみのある町づくりをしなければと思っているんです」。どんな世代が訪れても心和む町。おおらかな町の空気はいまも昔も変わらない。
新川屋佐々木酒店
東京都中央区日本橋人形町2-20-3
☎ 03-3666-7662
www.sasas.jp