株式会社 日本橋とよだ 代表取締役会長 橋本 敬 氏

2011年11月号【第13号】

江戸のよさを未来に繋ぐ、街と川のルネッサンス

日本橋に縁が深い人たちにご登場いただく「まち・ひと・こころ 日本橋福徳塾」。第13回目は、株式会社 日本橋とよだ・代表取締役会長の橋本敬氏。文久3年(1863年)に創業の割烹「日本橋 とよだ」の四代目であり、また「日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会」の会長として日本橋地域活性化のために取り組んでいる。そんな橋本氏が、日本橋で歴史を紡ぐ店のこと、地域活性化計画、街への想いなどを語る。


江戸前割烹の名店は寿司屋台からはじまった

 文久3年(1863年)、初代・豊田米吉が構えた屋台の寿司屋が、江戸前割烹の名店「日本橋とよだ」のはじまりだ。米吉が手掛けた寿司屋台は人気をよび、その後に寿司や天ぷらを扱う食堂へと発展、さらに隣で仕出し料理屋をはじめると周辺の大店から注文が相次ぎ大繁盛となる。
「創業時や明治期には庶民が楽しめる店として、そして大店相手の仕出し料理屋が成功して、江戸料理の割烹料理屋へと移り変わってきたんです」と四代目・橋本敬氏。今では、江戸料理の名人・宮澤退助氏に師事した五代目・橋本亨氏が包丁を握る。「時代のニーズに合わせて店のスタイルを変えてきた『とよだ』ですが、その歴史や伝統を大事に受け継ぎながら、前の代より味やサービスがよくなったとお客様に言われることを常に心掛けています」。

橋本敬氏 1934年生まれ。高校卒業後、四谷・白紙庵で修行。26歳で「日本橋とよだ」に戻り4代目として店を任される。2007年より日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会の会長ほか、名橋「日本橋」保存会副会長、全国料理業組合連合会相談役なども務めている。
 

日本橋川の水路活用や江戸を醸す和の街づくり

 日本橋で生まれ育った橋本氏は、様々な形で地域活性化に携わっている。2007年から会長を務める「日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会」もそのひとつだ。
 「日本橋地区の歴史・文化・伝統を残しながら、日本橋川を中心とした水辺の自然や環境を蘇らせ、次世代に向けた新しい街づくり施策を行政や学識経験者と一緒になり手掛けています。今年は『水辺空間を活かした街づくり』の一環として日本橋に船着場を開設。日本橋川の水路活用について検討中です。今は、1日に数便ですが日本橋から浅草へ遊覧船も運航しているんですよ。また近い将来、羽田空港から船で日本橋まで来ることも可能になるでしょう。国内外からの観光客を街に呼び込む仕掛けにもなる」と橋本氏。
 中央通りから一歩入った「仲地区(なかちく)」に関しても「路地や横丁の雰囲気を活かし、江戸の粋が漂うような街づくりをしていきたい。ひとつの店、ひとつの通りではなく、仲地区全体で魅力的な街をつくっていきたい」と熱く語る。
 またこんな面白い企画も手掛けている。「同会の10周年記念に『日本橋かるた』*を制作しました。詠み句は一般公募したのですが4500句以上の応募がありました。地元の小学校にも参加してもらってね。日本橋地区の魅力を伝えるいい企画になりましたよ」。
*日本橋かるた…日本橋の風物詩、街への想いなどを詠み込んだ郷土かるた。デザインは新進気鋭の浮世絵師・六代目歌川国政氏が担当。コレド室町・日本橋案内所等で販売中。

昼は界隈で働くビジネスマンや買い物帰りの女性がお手軽なランチを、夜は本格的な江戸前割烹を愉しみに食通たちが足を運ぶ

日本橋の料理人たちの結束の固さの理由とは?

 長年、日本橋料理飲料業組合の会長を務めていた橋本氏。組合をはじめ、若手料理人の「日本橋三四四会(みよしかい)」など、日本橋の料理人が集う会は多い。またどの店の店主に聞いても、日本橋の料理人は結束が固い、仲が良いと答える理由を「日本橋の生まれ育ちが多いですし、祖父母の代まで知っている家ばかり。
 また小学校や中学校の先輩や後輩、同級生など、仕事を始める前からの上下・左右に関係がありますからね」と笑う。
 そして日本橋の店主に共通するのは「多店舗展開して大きく広げる店は少ない。今の店舗を大事して、味やサービスの質をあげることに尽力している店主が多いこと」と話す。


日本橋から品川まで自転車で競った子ども時代

 街の象徴である〝日本橋〟の思い出を聞いてみたところ「小学生ぐらいの時かな、朝早くに友人たちと日本橋から品川まで自転車で競争するのが面白くてね。日本橋から品川まで大体7km、時間は30分ぐらいかかったと思います。帰ってくる時に橋が見えてくるとすごくホッとしたね(笑)」と橋本氏。
 また「このあたりは公園がないから、三越が遊び場でした。近所の子どもたちと屋上でよく遊びましたよ。子ども時代の思い出も多いし、信頼して買い物ができるし、今も好きな場所のひとつですよ」と懐かしい思い出話に笑顔になった。

朱塗りに黒塀の粋な外観が目を引く「日本橋とよだ」。1階はカウンターとテーブル席、2階と3階にはテーブル席やお座敷の個室が揃う
DATA

日本橋とよだ
東京都中央区日本橋室町1-12-3
☎ 03-3241-1025
www.toyoda.tokyo