株式会社 山本山 代表取締役社長 山本 嘉一郎 氏

2014年12月号【第50号】

家業の継承とは想いを次の時代に繋げていくこと

日本橋に縁の深い人たちにご登場いただく「まち・ひと・こころ 日本橋福徳塾」。第49回は、株式会社 山本山 代表取締役社長の山本嘉一郎氏。元禄3年(1690年)創業の山本山は、江戸期に庶民の間に青製の煎茶を広め、さらに玉露を開発したことで知られている。現在はアメリカに現地法人を設立し、米国と日本市場でハーブティの事業も推進中だ。山本氏に店の歴史について、そしてこれからの100年についてうかがった。



ものごとが成功するまでには三代100年かかる

本山の創業は元禄3年(1690年)に遡る。初代の山本嘉兵衛が京都の宇治山本村から江戸に出て、日本橋の地に店を構えたのが始まりだ。元文3年(1738年)、永谷宗七郎(永谷園の創業者)が、それまで一般的だった茶色いお茶“団茶”ではなく、青色で香りのよい煎茶の精製に成功。その美味しさに着目した四代目・嘉兵衛が『天下一』の名で販売したところ人気を博し、江戸中に煎茶が広まった。天保6年(1835年)には、六代目、嘉兵衛が玉露を発明。まろやかな風味が旗本や大名から評判を呼ぶ。1947年には現在の会長である九代目が海苔の販売を始めた。「こうして山本山の歴史を振り返ると、およそ100年ごとに何か新しいことが起きているのがわかります。次の100年目は2035年~2045年くらい。ここで何かが変わらないと、その次の時代に家業を引き継ぐことはできないだろうと思っています」と山本氏は語る。

美味しいものが大好きという山本氏。よく訪れるのはカウンターの店だとか。「つくってくださる方も、それを食べるこちらも真剣勝負。その緊張感がいいんです」。

山本 嘉一郎 氏 1959年生まれ。学生時代にお茶の製造工場でアルバイトを経験し、1971年、大学卒業と同時に家業へ入る。2008年に代表取締役社長に就任。休日はゴルフやドライブ、写真撮影などをして過ごす。好きな被写体は、日本橋の桜や京都の紅葉など日本の四季。
 

 1970年にはブラジルでお茶の生産を始め、1975年にはアメリカ・ロサンゼルスに現地法人を設立。お茶とハーブを扱うThe Stash Tea Companyを買収し、現在はアメリカでも大きなマーケットを展開している。「この事業が、次の100年の鍵になるかもしれません。ヒット商品に育つまでには時間がかかる。想いが形になるまでには三代かかると言われているんです」。だからこそ、山本氏には心に決めていることがあるという。「自分でやりたいことは自分でやらないようにしています。自分のやりたいことこそ、次の世代の人に手がけてもらう。その方が、事業継承がスムーズに行くからです」。

本店内にある喫茶室のメニュー『煎茶と和菓子』。毎朝、日本橋菓子司 長門から運ばれてくる和菓子は、季節ごとにさまざまな種類が楽しめる。

自らの意志で仕事をすることの大切さ

子どもの頃を振り返ると、家の仕事について特に先代から話をされた記憶がないという山本氏。「父はよくいまでも『やる気のない人間に何をやらせても失敗するだけだから、やらせない方がいい』と言うのです。もしかしたら私自身も、かつてやる気があるかどうかを見極められていたのかもしれませんね」と笑う。自分でやりたいと思うこと、その意識が芽生えるまで待つのが山本家のやり方だ。十一代目となる娘さんにも同じように接してきた。「私も父と同じように、娘に何も言いませんでした。そうしたら大学生の頃、一緒に家業をやっていくと表明してきたのです」。現在はアメリカ法人を任せているという。
アメリカでの事業に力を入れる理由のひとつには、日本の風習や食文化を、お茶や海苔に込めて海外の方たちに伝えたいという思いがある。「食を通して、たくさんの方々に日本を好きになってもらえたら嬉しいですね」。

長門とのコラボレーションで生まれた煎茶『長門』。和菓子に合うように宇治ベースでブレンド。甘みと渋みのバランスがよく、濃い味と豊かな香りが特徴だ。

ぶどうの粒のような店 房のような街づくりを

 歴史を通して山本山が伝え続けてきたものとは何か。その真髄についてうかがうと、明快な答えが返ってきた。「自分たちが美味しいと思っているものを、より多くの方に知っていただきたいという想い、それだけです」と山本氏。「美味しいものを食べた時には、『これを家族に食べさせたい』『これをあの方に贈りたい』という気持ちが生まれるでしょう。その無垢で純粋な心こそ、山本山の真髄なのです」。
 また、日本橋の地で320年以上もの間、商いを続けてきたからこそ、街への想いもひとしおだ。一つひとつの店が存在感を放ち、さらに街全体が集合体として輝く、そんな街になればと願っている。「私はよくぶどうの房に喩えます。一つひとつの粒も美味しくて、それが房になっている時にはさらに美味しそうに見える。街も会社も、そういう存在になることが理想です」。

再開発のため、2014年5月に移設した仮店舗。併設している喫茶室では、和菓子やおせんべいとともにさまざまなお茶が楽しめるセットメニューや、選び抜かれた食材を使ったお茶漬けがいただける。

店内ではお茶や海苔のほか、さまざまなシーンに合わせた茶器も取り扱っている。
DATA

山本山本店
東京都中央区日本橋2-10-2
☎ 03-3281-0010