名橋「日本橋」保存会 会長/ECO EDO 日本橋 実行委員会 会長 中村 胤夫 氏

2013年08月号【第34号】

文化が成熟した街“日本橋”を世界へ発信したい

日本橋に縁の深い人たちにご登場いただく「まち・ひと・こころ 日本橋福徳塾」。第33回は、名橋「日本橋」保存会 会長であり、ECO EDO 日本橋 実行委員会の会長でもある中村胤夫氏。1961年に三越に入社した後、代表取締役社長や会長といった数々の要職を務めてきた。日本橋とのかかわりは実に50年以上にもおよび、「第二の故郷」と呼ぶほど愛着が深い。そんな中村氏に日本橋の魅力と、街の活性化を目指した地域の活動についてうかがった。


江戸の知恵を現代の暮らしに活かす

 8月4日の“橋の日”にちなみ、今年も日本橋では“打ち水大作戦”が実施される。ヒートアイランド現象が起こる都市部で打ち水を行うことで、地表の温度上昇を緩和し、環境に対する意識を高めることが目的だ。このイベントは、中村氏が会長を務めるECO EDO 日本橋 実行委員会と名橋「日本橋」保存会が協力して開催している。「電力のなかった江戸時代の人々は、工夫を重ねながら涼を取っていました。自然と共生し、ものを大切に扱う循環型社会を築いていたんです」。

時間があれば本屋めぐりをする。「売れる店は店の奥へ人が流れる陳列になっていて、店員さんが勉強している。常に棚に人の手が入っているから温かみがあるんです。百貨店も同じですね」。

中村 胤夫 氏 1936年長野県塩尻市生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、三越に入社。銀座店店長、経営企画室室長などを経て、2002年に代表取締役社長に就任。相談役や特別顧問を歴任して現職。趣味は山登りと読書。
 

 そんな江戸の暮らしの知恵を見直そうと地元企業や団体が中心となり、2008年にECO EDO 日本橋 実行委員会が誕生した。「日本橋は、いまも江戸文化が息づく街。だからこそ説得力があり、意味のある活動だと感じています。打ち水やゆかた、川辺での夕涼みや金魚の観賞など、江戸時代から伝わる夏の風物詩を通して、環境に目を向けるきっかけが生まれればと思っています」。


恒例の“橋洗い”は参加者多数の街の風物詩

 三越に50年余り勤務してきた中村氏にとって、日本橋は特別な街だ。数々の支店も経験したが、日本橋本店での仕事は実に43年にもおよんだという。「生まれ故郷の長野よりも、ずっと長く生活させてもらっていますから愛着があります。日本橋で働いている人は少なからず、みなそういう想いを抱いているんじゃないかな」。そんな自分を育ててくれた日本橋の街に、恩返しをしたいという。

毎年ゆかた姿の参加者たちで、一斉に打ち水を実施。地元の老舗の旦那衆などもゆかたで参加する。

 2004年からは、名橋「日本橋」保存会の会長も務めている。1963年“天下の名橋であり、五街道の起点である日本橋をよみがえらせよう”という志で設立された同会には、現在20の町内会、100社の企業会員、60名の個人会員が参加し、さまざまな活動を行っている。中でも“名橋「日本橋」橋洗い”は1971年から続く、会を代表する伝統行事だ。日本橋が初めて架けられたのは江戸幕府が開かれた1603年、いまの橋は1911年に架け替えられた20代目にあたる。“橋洗い”には1,600名余りの地元有志が参加し、たわしやデッキブラシを使って、石造り2連アーチの日本橋を洗い上げる。1964年の東京オリンピックの際に橋の上に高速道路が建設されたことで、川の溶存酸素が希薄になり汚染が深刻化したため、使用する洗剤にも配慮。EM洗剤(※1)を使うほか、橋の上からEM団子(※2)を日本橋川へ投入するなど、浄化にも努めている。

今年で43回目を迎える“橋洗い”。子ども達も参加して、ゴシゴシと橋を洗い上げる。最後は散水車や消防車両から橋と袂に放水を行い総仕上げ。橋に架けられた銘板や道路元標もピカピカに生まれ変わる。

“川のある風景”を観光のキーワードに

 1999年には日本橋架橋88周年を記念して、名橋「日本橋」保存会で箱根駅伝の最終区間を日本橋コースへ変更する働きかけを行った。「街の人々の強い想いで実現しました。お正月に警備に出て、初めてトップ選手が戻ってくるのを見た時の感動は忘れられません。みなの熱意が結実した瞬間でした」。現在も大会後の祝賀パーティーでは、中村氏が優勝校に日本橋の麒麟像をモチーフにしたトロフィーを手渡すという。
 今後さらに、日本橋の舟運観光にも力を入れていきたいと語る中村氏。「いつか日本橋川の両側に風の通る散歩道をつくりたいですね。かつては水の都といわれた日本橋ですから、その風景を少しでも再現したい。海外からのお客さまに水と緑の美しい街・東京、そして古いものと新しいものが融合する日本橋の街をぜひ見ていただきたいんです」。

※1 EM洗剤…有用微生物群を使った環境に配慮した洗剤。
※2 EM団子…乳酸菌や酵母、光合成細菌など自然界に存在する微生物を土に練り込んだもの。河川などの汚泥を分解させる効果がある。

日本橋の上から川へEM団子を投入している様子。この他にも、名橋「日本橋」保存会では街の有志とともに、定期的に日本橋川を清掃するなどの活動を行っている。
DATA

名橋「日本橋」保存会
www.nihonbashi-meikyou.jp