日本橋に縁が深い人たちにご登場いただく「まち・ひと・こころ 日本橋福徳塾」。第20回目は、えいと珈琲店のオーナー・竹内章雅氏。日本橋と八重洲の連合町会である日本橋六之部連合町会青年部「日八(にっぱち)会」の会長を務め、地域の活性化を目指した活動を行っている。今年は2年に一度の「山王祭」が執り行われる年。日八会の活動について、祭りへの思いについてうかがった。
昭和の面影を色濃く残す喫茶店「えいと珈琲店」。飲み物だけでなく、ナポリタンやハンバーグといった豊富なランチメニューも人気だ。夜にはお酒も提供している。店内には、いまでは珍しくなったゲーム機付きのテーブルもあり、これを目当てに訪れるお客さまもいるとか。昼夜を問わず、近隣のビジネスマンの憩いの場として親しまれている。
創業して約50年。竹内氏がこの店の主となったのは20年ほど前のことだ。創業者である父の秀介氏が50歳という若さで夭逝し、それまで働いていた会社を辞めて後を継いだ。
現在、厨房で腕を振るう一方で、日本橋と八重洲の連合町会「日八会」の会長も務めている。今年で就任5年目。イベント時期はとにかく忙しい。「4月にさくら祭りを終えたばかり。すぐに山王祭の準備が始まるから」。ひっきりなしに鳴る携帯電話で関係各所とやり取りし、祭りの準備を進めていく。毎朝8時過ぎに店に出勤し、閉店の20時を過ぎてからも終電近くまで店で過ごす。時にはその間に会議に出席することもあるという。帰宅後もパソコンでの一仕事が待っている。
日八会には、現在70名ほどの会員が所属している。月1回、定例会が開かれるほか、役員は毎週金曜日の夜に集まり、イベントの企画を練ったり、さまざまな意見を交換したりする。「みんな遅くまで仕事をしている店主ばかりだから、スタートは夜の11時。家に帰らず夜通しで話すことが多いんですよ」。会員同士の親睦を深める食事会や、専門家を招いた勉強会、ワイナリーの見学会なども開催している。
年間の主な活動は、春の「さくら祭り」と秋の「お江戸まつり」、そして2年に一度の「山王祭」だ。「さくら祭り」は、桜の開花時期の3日間、中央通りから外堀通りまでの“日本橋・八重洲さくら通り”で開催される。ジャズ演奏やメキシカンライブ、おつまみの露店、ビールやワインの販売が行われ、夜遅くまで賑わう。歩行者天国になった車道には、敷物を広げて花見を楽しむ人々も。そんな中、会員たちは忙しくも笑顔で立ち働く。10月に開催される「秋のお江戸まつり」では、天ぷらやうなぎ、蕎麦など江戸の屋台をイメージした露店が並ぶ。毎回、和太鼓や尺八の演奏、神輿を担いだり駕籠に乗る体験など和テイストのイベントも盛り込まれる。
一方、イベント以外に八重洲地区の環境浄化活動にも力を入れており、警察と協力しながら定期的にパトロールも行っている。
今年は山王祭の年。2006年から始まった「下町連合渡御」では、中央通りを各町会の神輿が練り歩き、クライマックスの日本橋で大きな盛り上がりを見せる。「下町連合渡御がスタートして、隣町との交流が深まりましたね」。参加者は一つの町会で300~500人。全町会を合わせて20名ほどの役員が準備段階から関わる。各町会、各世代の意見を聞きながら細かな調整をしていくため、竹内氏の仕事は多岐に渡る。『日枝神社下町連合』の案内を兼ねた無料冊子づくりもその一つだ。「毎回、2年前から準備を始めています。祭り当日に、次の冊子のための写真撮影や情報収集をしなければならないから」。冊子は日本橋髙島屋やコレド日本橋、丸善・日本橋店などで配布予定。えいと珈琲店でももらうことが出来る。
日八会の仕事に追われる日々だが、もちろん本業にも手が抜けない。この時期リラックスできるのは、お酒を嗜むひとときだとか。「仲間と飲んだり、家で晩酌したりが唯一の趣味」と笑う。
最後に日本橋の未来像をうかがうと「もっと街の中の人たちが、日本橋の魅力を意識するといいなと思っているんです。かつては城下町として時代の最先端だった場所。その頃の活気を忘れずに若い世代とチャレンジしていきたい。待っているのではなく、こちらから口火を切って近隣とも一緒に活動したいんです」と目を輝かせた。
えいと珈琲店
東京都中央区日本橋2-6-10
☎ 03-3275-3570
※現在休業中