よみがえった明治時代の味 小春軒

2012年09月【第23号】
  • 『カツ丼』はしじみ汁がついて1,300円。デミグラスの香りがほんのり漂うカツと野菜に、卵の黄身がトロリとからまる。

  • 料理はすべてオーダーを受けてからつくる。甘辛い割り下をジュッと染み込ませた一口カツは、柔らかく優しい味わい。思いのほかさっぱりといただける。

  • 上/テーブルとカウンター合わせて18席。『特製盛り合わせ』(1,400円)や、『カジキのバタヤキ』(850円)も人気。12 時.13 時頃は混み合うので、相席になることも。
    下/地下鉄人形町駅のすぐそば、白い暖簾とステンドグラスを目印に来店を。この建物は戦後に建てられたもの。戦前は道を挟んだ向かいに店舗があったのだとか。

明治45年(1912年)創業の「小春軒」。山県有朋のお抱え料理人だった小島種三郎さんが、同家の女中頭だった春さんと結婚し、二人の名前を店名にして開いた店だ。数ある人気メニューの中から、初代が考案した『カツ丼』をご紹介。

 今年3月、創業100周年を迎えた人形町の洋食屋「小春軒」。毎日、近隣で働く人々や、遠くから足を運ぶ“洋食好き”で賑わう。揚げ物を三代目の小島幹男さんが、焼き物を四代目の祐二さんが担当し、フロアを三代目の奥さまが担当している。

 17年前、祐二さんが修業先から戻ったのを機に、「初代の味を復活させよう」と始めたのが、この『カツ丼』だ。一度メニューからなくなっていたため、幹男さんが子どもの頃に食べた味を頼りに再現した。「当時、カツ丼はご馳走。お客さまと同じカツ丼を食べさせてもらったのは、初代にとって初孫の父のみだったそうです」と祐二さん。明治時代のカツ丼の“特別感”を伝える、貴重なエピソードだ。

 この店のカツ丼は、ご覧のとおり卵でとじていない。一口カツ、目玉焼き、野菜で構成されている。三代目がカツを揚げている間に、四代目が生の玉ねぎ、下ゆでしたジャガイモと人参、グリンピースを割り下で煮る。そこに揚げたてのカツを浸して、ご飯の上へ。さらに焼きたての目玉焼き、野菜を重ねて完成だ。親子の連携プレーがなせる技。「喧嘩した時でも、コンビネーションだけはバッチリなんです(笑)」。味の決め手は、割り下に隠し味としてデミグラスを加えること。これにより、香りとコクがプラスされるという。

 “気どらず美味しく”がモットーの小春軒。食べたそばから「次はいつ食べよう?」と恋しくなるカツ丼は、家族の歴史の味なのだ。

DATA
店名 小春軒
住所 東京都中央区日本橋人形町1-7-9
03-3661-8830
営業時間 月~土11:00~14:00、月~金17:00~20:00 日曜・祝日休