神田祭

神田明神の名で親しまれ、現在の地に遷座してまもなく400年目を迎える神田神社。江戸時代には「江戸総鎮守」となり、幕府の御用祭りとなった神田祭は山王祭とともに「天下祭」として壮麗な祭りに発展しました。さまざまな時代の変化を経てもなお受け継がれる心や様式、町の人々の結束が感じられる神幸祭や神輿の巡行。今号では、ご遷座400年奉祝大祭を記念して、神田祭の歴史をたどり、今回の見どころをご紹介します。
画像/行列の先頭を務める大伝馬町の諌鼓山車(かんこだし)。
諌鼓鶏は平和の象徴を意味し、現在の神幸祭でも練り歩く。(「神田明神祭礼絵巻」部分)

2015年05月 【第55号】

神田祭とは

神田明神は徳川幕府の厚い崇敬のもと、現在地へ遷座した。江戸の最古社の一つであり、関ヶ原の戦いで徳川家康の武運を祈祷したところ、神田祭の9月15日に勝利。幕府が開かれ、都市計画として江戸を守る要の方角・鬼門に制定された。
神田祭は、家康より縁起の良い祭礼として絶さないよう命じられ、いまも昔も氏神様の神輿が渡御(とぎょ)することで各町を清める祭り。江戸城へ入り将軍も上覧、幕府の支援もあったことから盛大化した。江戸の文化・経済の発展が祭りにも大きな影響を与え、祭礼行列は1,000人前後、趣向を凝らした豪華な山車は40本前後におよぶ。また、祭礼行列の一つ「附け祭(つけまつり)」では、能、浄瑠璃、歌舞伎、舞踊、お囃子や音楽などを取り入れた華やかな踊り舞台や曳き物が出され、さらに人気を博した。ところが明治に入り近代化が進むと、電線が引かれたことを理由に、8mにもおよぶ山車はほとんど出されなくなり、代わって神輿が出されるようになる。各町会が競うようにつくり、戦争での中止を受けつつも、江戸時代から受け継がれた心意気を神輿渡御というかたちで表し、神輿宮入も行われるようになった。
平成に入り、歴史の回顧がきっかけとなって「附け祭」が復活。かつて人気を博した曳き物が復元され、勇壮な「相馬野馬追」の騎馬武者や、新たなキャラクターが行列に加わった。さまざまな時代の波を乗り越える神田祭は、古き良き時代の文化の再現と、新たな表現が共存し、地域を一体化させている。

天下祭の誇りと地域の絆が築いてきたもの

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神幸祭でご奉仕する清水さん。

清水祥彦さん(神田神社 権宮司) 「神田祭は天下祭とも称されて受け継がれてきました。いま繁栄する108の氏子町は、大火や震災・戦争によって大きな被害を受け、何度も焼け野原となっては、その度に見事に復興して繁栄を遂げてきました。復興には物資やお金も大事ですが、それ以上に地域の絆やメンタリティが大切になります。氏子の人々は、天下祭の誇りと氏神様への信仰を胸に、互いに助け合って苦難を乗り越えてきました。時代の流れとともに祭りの姿が変わっても、心意気は変わることはないでしょう。地域の人々とともに、お祭りを通して築いてきたものをしっかりと受け継ぎ、お伝えしていきたいと思います」

江戸の原点・日本橋商人の柔軟性 「五街道の原点・日本橋のなかでも物流と情報の集積地だったのが、山車行列の先頭を務める大伝馬町です。"伝馬(でんま)"という名が残っているとおり、各街道の宿駅で貨客輸送を行うための役を担っていた町で、全国からさまざまな物事が集まってきました。その大伝馬町をはじめ、日本橋には各地から人や財力が集まり、最先端の情報・文化を常に受け入れてきました。江戸の原点でもある日本橋の町には、そんな柔軟性をもった商人がたくさんいます。だからこそ町が時代によって少しずつかたちを変えながらも、新しいものと古いものが共存したまま見事に受け継がれているのではないでしょうか」

遷座400年の軌跡

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江戸時代の山車は幕末にかけて、二段式、三段式と迫り上げ式になった。「神田祭出しづくし」歌川芳員/1847年または1859年作。

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画面中央の「須田町」の山車は、江戸東京博物館に復元されている。「東京神田神社祭礼之図」西村藤太郎,一鵬斎芳藤/1876年作(国立国会図書館所蔵)

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1922年の神田祭の様子。中央は多額の浄財により新調された一の宮鳳輦。

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1933年に復興した二の宮神輿宮出し。

神幸祭

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日本橋三越本店前を巡行する一の宮鳳輦と行列。※過去の様子

5月9日(土) 8:00~19:00 祭神が乗る一の宮鳳輦、二の宮神輿、三の宮鳳輦をはじめ、さまざまな曳き物、行列が108の氏子町会を練り歩く。行列は数千人規模となり、絢爛豪華な時代絵巻は圧巻。

昼御饌(ひるみけ)

13:20~ 薬研堀不動院 東日本橋二丁目には、神幸祭の行列が立ち寄って一時とどまる「両国旧御仮屋(おかりや)」があったことから、薬研堀不動院の隣で「昼御饌」と呼ばれる神事が行われる。再出発する14:20までは、3基の鳳輦・神輿を一堂に見ることができる。

附け祭

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江戸後期頃の山車の様式を伝える遠州横須賀三熊野神社大祭の祢里。(写真提供:掛川市)

5月9日(土)15:00~ 有馬小学校 平成に入り復活した附け祭。今年は天下祭の山車の様式が伝わる静岡県・三熊野神社大祭の2町の祢里(ねり。山車の一つ)が里帰り。福島県の「相馬野馬追騎馬武者」、「大江山凱陣(おおえやまがいじん)」、「大鯰と要石」、「花咲か爺さん」のほか、「浦島太郎」、神田神社の神馬(しんめ)「あかりちゃん」や神田神社のキャラクター「みこしー」などが行列に加わる。

祭りを通じて生まれる人と人との絆

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前回の神田祭の神幸祭で馬に乗る宮入さん。

宮入正英さん
(株式会社宮入 代表取締役社長/神田神社 氏子総代/
横山町奉仕会 会長)
「家業を継ぐために日本橋横山町に来て仲間として受け入れられたのは、祭りに参加したことが大きかったですね。住民の少ない地域が担ぎ手不足に悩むなか、うちの町会では企業の人たちに積極的に参加してもらっています。初めは乗り気ではなくても、担ぐとみんな仲良くなる。祭りを通じて育まれるコミュニティはすごく大事。地域の人情にふれ、氏神様への崇敬が生まれ、新しい住民や子どもたちも一体になれる。幾多の歴史を乗り越えてきた祭りを守り、継承していくことは楽ではないけれど、大事な町の財産。神輿一つをとっても、祭りのあと、時には数ヶ月かけて修理します。私たちは祭りを通したさまざまな文化的財産を次の世代へと繋げていきます」

今年の見どころ 「神輿渡御とは、神輿に御霊(みたま)を遷して氏子町内をめぐり、罪穢れを祓(はら)い、福をあまねく授けること。神田祭では鳳輦や大神輿の渡御はもちろん、華麗な神幸祭行列や附け祭もぜひ見てほしい。時代絵巻さながらで、東京でそうした光景が見られることは貴重。また、各町会の地域渡御のなかには、水運で発達した江戸ならではの舟渡御もあります。ご遷座400年奉祝大祭の今年はぜひご期待ください」

地域渡御

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隅田川を曲がって神田川へ進む神輿を乗せた舟。渡御の際、お囃子の船を先頭に巡行する。

5月10日(日) 9:00~18:30
※一部5月9日(土)の地域有
地域渡御は各地域の町会神輿が連合して各地域一帯を練り歩き、沿道はたくさんの人出で埋め尽くされる。今年は東日本橋二丁目の神輿が舟渡御。江戸開府後の1616年まで神田祭は舟渡御だったといい、2003年、江戸開府四百年記念大祭で復活した。5月10日16:10に浜町の船着場を出発し、神田囃子ではやしながら隅田川から神田川を進む。また、室町一丁目では群馬県藤岡市の諏訪神社より、三井越後屋(後の三越)が奉納した男神輿が初参加する。前回の女神輿と同じく、5月3日から日本橋三越本店の新館1階日本橋口で展示されるので、ぜひ足を運んで。

神田祭をより楽しむ関連イベント

神田神社

遷座400年記念 資料館特別展「大江戸・神田祭~神田祭の博物誌~」展 神田神社が所蔵する神田祭や江戸祭礼に関する絵巻物、浮世絵、ポスター、古写真など、現在までの資料を展示。

開催中~7月26日までの土・日曜・祝日
料金(税込)...大人300円 学生・子供200円


遷座400年記念特別講座「明神塾・巻之18」 江戸文化を中心テーマとした明神塾。神田祭の最新講座を交え、2部構成で開催。第1部には神田祭研究の最新情報を、第2部には食文化や文芸をわかりやすく解説する。

4月22日(水)、6月17日(水)、7月22日(水)、9月16日(水)、
10 月21日(水)、11月18日(水)
第1部 18:00~19:00、第2部 19:15~20:45
会場...神田神社 祭務所地下ホール
料金(税込)...単回2,200円 通年12,000円

(問)神田神社 TEL 03-3254-0753

江戸東京博物館

常設展 3月28日(土)にリニューアルオープンした江戸東京博物館の常設展示室。江戸ゾーン、東京ゾーン、第2企画展示室に分かれ、江戸ゾーンでは幕末の大きな山車模型と神田祭の行列のミニチュア模型があり、絢爛豪華な祭礼を視覚的に楽しめる。その他、名橋・日本橋や人形町にあった芝居小屋や歌舞伎、越後屋などの模型も。

9:30~17:30( 土曜は9:30~19:30)
休館日...月曜(祝日の場合は開館、翌日休館)
料金(税込)...一般600円、小学生以下無料、学生・シニア料金有

(問)江戸東京博物館 TEL 03-3626-9974(9:00~17:30)

絢爛豪華な神輿揃いぶみ

5月9日(土)、5月10日(日)の2日間に日本橋地域を渡御する計23基の神輿。絢爛豪華な神幸祭では3基の大神輿が、地区の連合渡御では勇壮な20基の各町会神輿を見ることができる。

日本橋地域をめぐる 神輿一覧

大神輿一覧

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左/1984年、五世宮惣・村田圭一作。三の宮神輿。通称まさかど様・平将門命(たいらのまさかどのみこと)を乗せ、江戸時代の神輿を元にしつくられた。中/1973年、下谷・種谷豊次郎作。一の宮鳳輦(ほうれん)。通称だいこく様・大己貴命(おおなむちのみこと)を乗せる。戦後初の神田祭に際してつくられた。右/1952年、神田・宮惣作。二の宮鳳輦。通称えびす様・少彦名命(すくなひこなのみこと)を乗せる、日本橋三越本店が奉納。

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室町一丁目会1938年、後藤作

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人形町一丁目町会1953年、宮本作

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人形町二丁目三之部町会1985年、鈴木金吉作

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蛎殻町一丁目町会自衛会作製年、作者不明

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蛎一共和会1958年、宮本作

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蛎殻町東部町会2000年、宮惣作

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馬喰町一丁目一の部町会1954年、朝子作

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日本橋馬喰町二丁目町会1954年、浅子作

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横山町々会作製年不明、宮本作

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東日本橋三丁目橘町会1952年、作者不明

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東日本橋二丁目町会1960年、宮本作

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東日本橋一丁目矢ノ倉町会・村松町会1953年、作者不明

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久松町町会1951年、作者不明

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浜町一丁目町会1956年、後藤作

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浜二金座町会・浜町二丁目親合町会1954年、作者不明

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浜町二丁目西部町会1959年、作者不明

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浜二町会1952年、宮本作

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浜町三丁目東部町会1956年、宮本作

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浜町三丁目西部町会1958年、宮本作

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中洲町会1954年、作者不明


制作協力・画像提供/神田神社 ※写真は過去の様子