日本橋の節分

冬と春の区切りとなる「節分」は、旧暦で一年の始まりとされた「立春」の前日に当たることから、古来より縁起を祝う行事が行われてきました。豆まきをはじめ、いまも残る節分行事の由来を知れば、移りゆく季節をより深く楽しむことができるはず。今号では、時節や習わしに関する解説とともに、節分に縁の深い日本橋の食をご紹介します。

2013年02月 【第28号】

家や自身の心から邪気を払い、清らかに春を迎える習わし

年中行事の歴史をたどると、日本人が大切にしてきた価値観を垣間見ることができる。それらを見つけるために、日本料理や伝統行事に造詣の深い柳原紀子さんに、節分行事の由来、食文化についてうかがった。

柳原紀子さん

近茶文庫 文庫長 柳原紀子さん 近茶流宗家・柳原一成夫人。日本橋小網町出身。文化文政から受け継がれる近茶流懐石道の研鑽指導に努める。近茶文庫の活動である江戸料理書、漆器・陶磁器などの保存のほか、料理作法、日本人としての生活マナーの指導も行う。

家や自身の心から邪気を払い、清らかに春を迎える習わし 旧暦では立春から新しい年が始まると考えられていました。節分は四季の分かれ目を指す言葉で、本来は年に4回ありますが、立春の前日、いまの2月3日の節分に重きがおかれているのはそのためです。
季節の変わり目には邪気が入りやすいといわれ、そのために古くから行われているのが「豆まき」です。良くないことを鬼になぞらえて、"鬼は外、福は内"という掛け声とともに、豆をまいたときの"パラパラ"という音で鬼を追い払うのです。
豆は"ますます繁盛する"にちなんで枡に入れるのが一般的。"はんじょう"の音から、半升の枡をよく使います。 では、なぜ"炒った"豆をまくのか? 節分の日は、暦上では翌日から春になるとはいえ、実際には寒さが際立っている頃。木の実など食べ物が非常に少ないのです。そのような時期に、味噌、醤油の原料であり、"日本食の宝"ともいえる大豆をまくのには、野生の動物たちへの"おすそ分け"という意味も含んでいます。自然界へ食べ物を施すことで、魔が入ってこないようにという祈りを込めているのです。
家に起こる"悪いこと"の象徴が鬼ですが、人の心の中にも鬼が潜んでいるもの。それらも一緒に外に出して、自分自身も清々しい気持ちになって新しい一年を迎えるという、"我が身"のための行事でもあります。

暮らしに取り入れたい、今も残る"節分"の食 豆まきのほかにも、節分にはいろいろな食習慣が残っています。豆は体が丈夫になるようにと歳の数だけ食べるのが一般的ですが、お茶でいただくこともあります。"よろこぶ"の音にかけた昆布、おめでたい"松竹梅"に通じる梅干しなどと一緒に煎じたお茶を「福茶」といい、これをいただくと災厄から逃れられるといわれています。お正月にも飲まれている縁起のいい飲み物です。
節分の日の夕暮れ、ヒイラギの枝に鰯の頭をさして門や軒先にかかげる「焼嗅(やいかがし)」という習慣もあります。ヒイラギのトゲと鰯の匂いで鬼を追い払い、節替わりの無事を願うのです。浮世絵にも描かれていますし、"鰯の頭も信心から"ということわざも残っているほど、古くから続いている風習です。節分に鰯料理を食べるのはこれに由来しています。

初午の日にいなり寿司

行事食として、初午の日にいなり寿司を食べる。

季節行事を取り入れることで、日々の生活にメリハリを 節分・立春に続く行事として、「初午(はつうま)」もあります。2月最初の午の日を「初午」といい、五穀豊穣を願う祭礼が各地の稲荷神社で執り行われます。神様の遣いである狐の色を連想させる油揚げをお供えすることから、この日には「いなり寿司」が食べられています。「小豆めし」も縁の深い食べ物の一つで、小豆を煮た汁でうるち米を炊きます。赤というのは邪気祓いの色であり、縁起のいい食べ物です。
こうした行事に由来する縁起食を手づくりしたり、お店で買い求めたりして食卓に並べ、昔からの風習にならって部屋をしつらえることで、日々の生活に節目やけじめができることでしょう。現代は、"ハレ"と"ケ"の区別が曖昧で、家族の関係も希薄になりがち。そういう時代だからこそ、行事に関わるものを生活の中に取り入れて、季節の移り変わりをしみじみと楽しんでみてはいかがでしょうか。

紅白の福豆で楽しみたい豆まき

袖振り大豆

店名の焼印が押された枡に、北海道産の"袖振り大豆"と、山形県の伝統野菜である"紅大豆"を使った福豆が入っている(735円)。

黄金芋

お店は水天宮の交差点のほど近く、人形町通り沿いにある。看板商品である『黄金芋』(1個190円)のニッキの香りが店前まで漂う。

壽堂 『福和内』 明治17年(1884年)創業の「壽堂」が節分用に発売する『福和内』。2種類の炒り豆はおめでたい紅白の色合いで、かわいい干菓子がアクセントを添える。豆まきの掛け声にちなみ、"鬼"の干菓子が枡の外にあるのは、今年から取り入れたアイデアだという。松と梅で"商売繁盛"にかけるなど、縁起のいいモチーフがたくさん詰まっている。

壽堂(ことぶきどう)
東京都中央区日本橋人形町2-1-4
TEL 0120-480-400
営業時間...9:00~21:00(日祝~18:00)
不定休

味、形、菓銘...五感で楽しむ縁起菓子

福ハ内

上品な甘さの桃山製白あん入りの『福ハ内』(写真は13個入りで3,150円、2/3までの限定販売)。江戸から明治時代に活躍した画家・富岡鉄斎と山本春挙が、それぞれ賛と画を寄せた。

日本橋川沿いにある数寄屋建築の店舗。店内の正面には茶室もある。

日本橋川沿いにある数寄屋建築の店舗。店内の正面には茶室もある。

鶴屋吉信 『福ハ内』 今年で創業210年を迎える京菓子匠「鶴屋吉信」で、お多福豆をかたどった『福ハ内』が誕生したのは明治37年(1904年)。ふくふくとした丸みと焼き色が愛らしいこのお菓子は、商家の娘が豆まきをしている光景を表現したという。100年以上の歴史が紡ぐ味と、枡入りにちなんだ"ますます繁盛"の願いを込めた意匠は、贈り物としても喜ばれている。

鶴屋吉信 東京店
東京都中央区日本橋室町1-5 COREDO室町3
※2014年3月20日「COREDO室町3」へ移転オープン
TEL 03-3243-0551
www.turuya.co.jp

"鰯"とともに食す山陰の旬

コース

料理はコースのみ(8,000円~)。節分の日は鰯の塩焼きが人数分提供される。

松葉カニ 旬の味 十四郎

上/炭火で焼いていただく『松葉カニ』は、この時期の一押しだという(11月~3月限定)。 左下/金沢の旧家を移築したという店舗。梁や欄間など、古材のぬくもりを至るところで感じられる。右下/3階にあるいちばん広い座敷。最大16名で利用できる。全5部屋、総席数48席。

旬の味 十四郎 『会席料理』 女将の故郷である鳥取や山陰地方の港から直送される素材で、四季折々の会席料理を提供する「旬の味 十四郎」。節分の日は魔除けに効くとされる"鰯"の塩焼きが全コースに加わり、年男の人には豆まきをしてもらうなど、時節にちなんだおもてなしも。店名に冠されている"旬の味"を、行事の雰囲気とともに味わうことができる。

旬の味 十四郎(とうしろう)
東京都中央区日本橋人形町1-5-14
TEL 03-3662-0163
営業時間...月~土11:00~13:30、
月~金17:00~22:30(L.O.21:00)
日曜・祝日休
www.touhonpo.com/toushiro.html

玄米ほうじ茶でいただくお祝い茶

福茶

普通のお茶と同じように煎じていただく『福茶』(1袋150円、なくなり次第終了)。

極上ほうじ茶

通年商品でもっとも人気のある『極上ほうじ茶』(175g 1,260円)をはじめ、店頭には約100種類のお茶が並ぶ。

森乃園 『福茶』 大正3年(1914年)の創業時から、さまざまな種類の自家焙煎ほうじ茶を提供する「森乃園」。正月や節分に向けて期間限定で販売される『福茶』もほうじ茶がベースになっている。焙煎した茶葉と玄米を混ぜ、そこに昆布、小梅、『黒豆ほうじ茶』に使われている黒豆が入る。無病息災を願いながら、玄米ほうじ茶の香り、味も堪能したい。

森乃園(もりのえん)
東京都中央区日本橋人形町2-4-9
TEL 03-3667-2666
営業時間...平日9:00~19:00、
土・日曜・祝日11:00~18:00
※2階「甘味処」は12:00~18:00(L.O.17:00)
無休
morinoen.jp

あらゆる物事の"発展"を願う

笠間藩の牧野貞直公が江戸時代末期に本社より御分霊を奉斎して建立したのが、現在神社のある場所に当たる 境内には、お狐さまの像が祀られている

上/笠間藩の牧野貞直公が江戸時代末期に本社より御分霊を奉斎して建立したのが、現在神社のある場所に当たる。下/境内には、お狐さまの像が祀られている。

笠間稲荷神社の「初午祭(はつうまさい)」 「お稲荷さま」で親しまれている稲荷大神は、五穀、水産、殖産興業の守護神であり、多くの人々にとって身近な神様。日本橋には、日本三大稲荷の一つである茨城県笠間稲荷神社の東京別社があり、江戸末期に建立されて以降、地元とともに発展してきたという。初午の日(本年は2/9)は稲荷神社の縁日であるため、「初午祭」が執り行われる。参拝者はお祓いを受けた後、御札が授与される(12時頃より)。ぜひ足を運んで、一年の"発展"を祈願してみては。

笠間稲荷神社
東京都中央区日本橋浜町2-11-6
TEL 03-3666-7498

日本橋の神社・寺院の節分行事

水天宮

水天宮。節分祭斎行後、一般の方による「豆まき」を実施。2013年は石原慎一さん、塩野雅子さん、神職による雅楽演奏の「野外コンサート」も。子どもたちも多数参加し、毎年たくさんの人でにぎわう(写真は昨年の様子)。

水天宮 節分祭 2月3日(日)
12:30~ 節分祭 祭典齋行
13:00~ 招待者豆まき
13:30~14:15 第一部コンサート
14:30~15:30 一般参加者豆まき
15:45~16:30 第二部コンサート
東京都中央区日本橋蛎殻町2-4-1
TEL 03-3666-7195

笠間稲荷神社 節分追儺式 2月3日(日)
12:00~、14:00~、16:00~、19:00~ 豆まき
東京都中央区日本橋浜町2-11-6
TEL 03-3666-7498

身延別院 節分会追儺式 2月3日(日)
13:00~ 法要
14:00~ 豆まき
東京都中央区日本橋小伝馬町3-2
TEL 03-3661-3996

薬研堀不動院 節分会 2月2日(土)
16:30~ 護摩修行
17:00~ 豆まき
東京都中央区東日本橋2-6-8
TEL 03-3866-6220

小網神社 節分祭 2月3日(日)
※参拝者に福豆を授与(なくなり次第終了)
東京都中央区日本橋小網町16-23
TEL 03-3668-1080

末廣神社 節分祭 2月3日(日)
※参拝者に福豆を授与(なくなり次第終了)
東京都中央区日本橋人形町2-25-20
TEL 03-3667-4250