ホテルかずさや 代表取締役社長/日本橋地域ルネッサンス100 年計画委員会 都市観光部会長 工藤哲夫 氏

2013年02月号【第28号】

江戸開府以来の日本橋の文化を未来に語り継ぐために

日本橋に縁の深い人たちにご登場いただく「まち・ひと・こころ 日本橋福徳塾」。第27回は、ホテルかずさや代表取締役社長の工藤哲夫氏。旅館としての創業から数えて、今年で122年目を迎える。工藤氏はビジネスホテルの経営者として忙しい日々を送る一方で、日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会の役員も務め、街の活性化にも力を入れている。長きにわたり旅人を迎えてきたかずさやについて、生まれ育った日本橋への想いについてうかがった。


昭和初期まで日本橋には旅館が建ち並んでいた

 ホテルかずさやの歴史は明治24年(1891年)にさかのぼる。長野県で養蚕業を営んでいた初代・工藤由郎氏が旅館を経営しようと東京に進出し、日本橋の地に開業していた『上総屋旅館』を買い取ったのが始まりだ。江戸時代より東海道の起点であり、商いの中心地であった日本橋には宿屋が集まり、地方の商人が数多く宿泊していたが、その名残は昭和初期まで続いていたという。

今年“年男”となる工藤さん。今後の抱負は「人生一回りしたわけですから、気持ちを新たに健康に留意しながら、日本橋の発展と社業の隆盛のために尽力していきたい」とのこと。

工藤哲夫氏 1953年日本橋生まれ。大学で経営学を学んだ後、旅行代理店に入社。海外旅行の団体部門や企画を12年間経験し、1989年より家業である「ホテルかずさや」に入る。1993年に四代目代表取締役に就任。趣味はマラソンで、時には月に200kmも走る。東京マラソンにも4 度出場し、日本橋を通過する際には仲間たちから大きな声援を受けたという。
 

 昭和24年(1949年)にお父さまである誠太郎氏が三代目に就任し、昭和55年(1980年)には旅館からホテルへ形を変えて『ホテルかずさや』として新たなスタートを切った。その背景には高度経済成長によるビジネススタイルの変化があったという。「東京オリンピックの開催で都内にホテルが続々と誕生しましたが、当初は高級なホテルが多かったんです。昭和50年代に入り出張する方が増え、一気にビジネスホテルの需要が高まりました。当館がホテルに形を変えたのも、ちょうどその時期です」。日本橋界隈の旅館の多くは、この頃にビジネスホテルか貸しビル業へ転向したという。

日本橋の文化を伝えていこうと制作した『日本橋かるた』。全国から4000通もの詠み句の応募があったとか。絵札は六代目・歌川国政氏の手によるもの。

120年の間に培われたかずさやならではのおもてなし

 歴史ある旅館に生まれ、いつかは家業を継ぐことを考えていた工藤氏は、大学卒業後に旅行代理店に入社し、海外の団体旅行や企画部門で研鑽を積んだ。かずさやがホテルとなり10年近く経った頃に家業に入り、1993年に取締役社長に就任。それからは、時代とともにサービスの向上や館内の改修など、経営に力を注いできた。「あっという間の20年でしたね」と、微笑みながら振り返る。その中にあって、変わらず脈々と流れているのが旅館を礎とする、かずさやならではの“アットホームなサービス”だ。「古くから働くスタッフも多く、みな家族同然です。お客さまから朝食をお褒めいただくことも多いのですが、それは旅館の伝統を引き継いでいるからだと自負しています」。

2012年に開催された『日本橋かるた大会』の様子。今年も1月26日に実施され、日本橋の風物詩の一つとなりそう。

人々が語ることで歴史は伝えられていく

 ホテルの前の通りは、工藤氏が日本橋本町4丁目西町会青年部本栄会で会長をしていた際に、『時の鐘通り』という名称を決め、中央区に申請した。江戸時代、この通りには時間を告げる『時の鐘』があったほか、長崎のオランダ商館長が江戸参府の際に利用した長崎屋があり、鎖国時代の貴重な文化交流の場として栄えた。また与謝蕪村が入門し生活した早野巴人の家や、忠臣蔵の大石内蔵助が江戸入りした際に投宿していた小山屋もあった。「小さなエリアに詰まっているたくさんの歴史を、“時の鐘通り”という名称から感じてほしい。歴史というのは、誰かが伝えていかないと途絶えてしまうものですから」。

日本綱引連盟が主催する「2012 全日本綱引フェスティバル」に、日本橋ルネッサンスチームで出場し、一般の部で準優勝を飾った。

 同じ想いから、日本橋地域ルネッサンス100年委員会では『日本橋かるた』の制作にも携わった。「これは群馬県の“上毛かるた”をヒントにしています」。上毛かるたとは戦後、郷土愛を深めるためにつくられたかるたで、偉人や名所、名産が登場する。県内の小中学校ではかるた大会も開催され、世代を超えて親しまれているという。「日本橋でもかるたを通して、子どもたちが故郷に愛着を持ってくれれば」。2012年から始めた『日本橋かるた大会』には、日本橋地域の6つの小学校が参加し、楽しみながら街について学んでいる。小さな札が、歴史を次の世代へ繋ぐ架け橋となっていく。

新日本橋駅から歩いて1分のホテルかずさや。大通りから少し入った場所にあるため、静かなひとときが過ごせる。
DATA

ホテルかずさや
東京都中央区日本橋本町4-7-15
☎ 03-3241-1045
www.h-kazusaya.co.jp