日本橋に縁の深い人たちにご登場いただく「まち・ひと・こころ 日本橋福徳塾」。第25回は、小舟町にある寿司屋「日本橋 舟寿し」の三代目・二永展嘉氏。大阪生まれ、東京育ちの二永氏が、奥様のご実家である同店に入ったのは20年ほど前のこと。日本橋料理飲食業組合の青年部「三四四会(みよしかい)」の会長を経て、現在は同組合の役員を務めている。お店の歴史について、また日本橋の人々との関わり、街の魅力についてうかがった。
舟寿しは戦後間もなく、昭和26年(1951年)に開業した。初代である深澤於菟吉氏が早くに亡くなったため、その妻である現在の女将が長らく店を切り盛りしてきた。1991年、ビルに改修して上階にテナントを入れる案が浮上したことから、対外交渉役として二永氏が店に入ることになったという。
大学ではテニス同好会に所属し、3年次にはキャプテンも務めていたスポーツマン。初代のご息女である奥様とも「テニス同好会で知り合いました」と、照れくさそうに教えてくれた。大学卒業後は流通会社に就職し、企画の仕事に従事。「まさか将来、店に入るとは思っていなかったんです」と当時を振り返る。「180度違う世界に入り、最初は右も左もわかりませんでした。厨房の仕事は出来ませんので、少しずつ覚えられることから始めていきました」。
しばらくして、通りを同じくする鰻屋・高嶋家のご当主から、「三四四会」に入るよう勧められて会員に。ほどなく役員となり、徐々に街に融け込んでいった。7年ほど前には会長に選出され、2期4年の任務を果たす。ちょうど三四四会の結成50周年記念と重なったため、貴重な経験になったという。
記念イベントとして、ロイヤルパークホテルで盛大なお祝いの会を開催したほか、会員全店舗の協力のもとスタンプラリーを実施。約1ヶ月の開催で1,000名もの応募を集めた。「たくさんのお客さまにご応募いただき、ありがたく思っています。三四四会の認知にも繋がったのではないかと思います」。
会長の仕事を通して実感したのは、日本橋の人々の懐の深さだ。「老舗が多く、かつオーナーシェフのお店が多い中で、知識の少ない私に大役を任せてくださった。そのことに深く感謝しているんです」。
今年10月に開催されたIMF総会を契機とする外国人のおもてなし企画でも、二永氏は日本橋料理飲食業組合の窓口となり、積極的に取り組んだ。「このときに制作した英語の日本橋マップと、海外のお客さま向け多言語化ツールは、今後も積極的に活用したいと思っています」。
現在、お店では毎朝の魚の仕入れの他、経営全般に携わる。魚に関する知識は奥が深いため、これで終わりということがない。店のスタッフや、懇意にしている市場の仲買さんからアドバイスをもらうことも多いとか。舟寿しのおすすめをうかがったところ、「まずは鮪。よいものを揃えています。穴子は煮上がりがふっくらする江戸前を使っています」と力強く答えてくれた。
日本橋の寿司屋として、煮物、酢でしめたもの、醤油でつけたものなど、江戸前の伝統技術も大切にしている。女将の代になってからは日本料理にも力をいれ、お寿司と一品料理の両方が存分に楽しめる『寿し会席』を提供。舟寿しの一押しメニューだ。時代を見据え、「お客さまに喜んでもらう味」への探求にも余念がない。
スタッフ全員で料理の試食をし、意見を交わすことも多いという。
今後の日本橋に対する想いを聞いてみた。「日本橋は地域ごとの組織がしっかりしている街。飲食店の集まりと町会の集まりで顔ぶれが重なっていることも多く、それが結束を深めたり、地域交流を活性化したりしています。こんな街はそうそうありません。将来的には“ここに住んでよかった”と思えるような街を目指して、これからも努力していきたいと思います」。
日本橋 舟寿し(ふなずし)
東京都中央区日本橋小舟町11-2
☎ 03-3661-4569
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