鳥料理 「玉ひで」 8代目 山田 耕之亮 氏

2011年01月号【第3号】

御鷹匠を今に伝える、巧みの技で新分野を切り拓く

 日本橋に縁が深い人たちにご登場いただく「まち・ひと・こころ 日本橋福徳塾」。第3回目は、日本橋人形町に創業して251年、鳥料理「玉ひで」の8代目・山田耕之亮氏。元祖「親子丼」を目当てに多くの人たちが列をなす名店は、幕府の御鷹匠(おたかじょう)が興した軍鶏料理の専門店からはじまった。
 伝統を守り革新的な試みに挑戦し続ける山田耕之亮氏が、創業当時の話から、名物親子丼物語、新たな取り組みや日本橋への熱い想いを語る。


幕府に仕える御鷹匠が興した軍鶏料理専門店

 宝暦10年(1760年)、御鷹匠(おたかじょう)として幕府に仕えていた山田鐵右衞門(てつえもん)と妻のたまが興した軍鶏料理専門店が「玉ひで」のはじまり。将軍家の前で鷹がとらえた鶴をさばいていく包丁作法を「御鷹匠仕事」と言い、血を見せることなく、肉に手を触れることなく、鳥をさばき薄く切るという、代々踏襲してきた家伝の技でもって新たなる道を拓いたのだ。
 「創業時は初代夫婦の名前から『玉鐵』という屋号でした。また軍鶏料理専門店といっても大名たちからの依頼時だけ料理をふるまっていたそうです」と8代目・山田耕之亮氏。
 店だけに専念しはじめた3代目のころには、江戸の名物店番付にも紹介されるようになり、その繁盛ぶりも伝えられている。しかし当時は庶民が愉しめるような店ではなく、地位もお金もある一部の人たちだけのお愉しみだったそうだ。

山田耕之亮氏 法政大学卒業後、人形町の名料亭「玄冶店 濱田家」で修業。23歳で「玉ひで」に戻り、1998年に8代目を継承する。
 

代を受け継ぐものの信念が老舗の伝統をつむいでいく

 明治の半ば、5代目の妻とくは、残った割り下を卵でとじてご飯と食べていたお客様の姿から「親子丼」を考案する。しかし当時は、器ひとつで食べられる丼物は料亭で食べるものではないと、店で出すことは許さず出前のみの品書きだった。
 「兜町や魚河岸※で働く人たちからは、忙しい時も手軽に玉ひでの味を愉しめると人気があったようです。今ではお昼の定番になっている当店の親子丼ですが、私の祖父(6代目)が亡くなるまでは、お店では食べていただくことはできませんでした」
 山田氏の父・7代目になり、親子丼を多くの方に広めたいと600円で提供しはじめる。
「夜と同様、最高の食材なのでランチの親子丼は大赤字(笑)。一緒に働くようになってからは、料金を上げてもお客様が満足するものに変えたい、と父に言い続けてきました」
 しかし7代目は「いなくなったら好きにしたらいい」と言い、味に工夫を重ねることは許しても料金を変えることは許さなかった。その信念を受け入れ7代目の三回忌までは料金を据え置いた山田氏。しかし料金を上げる際、お客様が離れないかと不安も大きかった。「周囲にも反対されました。でもメニューも増やし料金も倍以上にしました。するとプチ贅沢を望む時代感覚ともうまくマッチして、並んでも食べたい!と思っていただけるようなメニューへと変わった」と山田氏。お昼の親子丼の行列は、以前と比べると倍以上に増えた。安いから並ぶのではない、そこに価値があるから並ぶのだ。
※明治11年、兜町には東京株式取引所(東京証券取引所の前身)が設立される。また日本橋の橋周辺は江戸期から関東大震災まで魚河岸があり、どちらも人々でにぎわっていた

滋味豊かで独特の歯ごたえの軍鶏。モモや手羽、レバー、皮などさまざまな部位をいただける伝統の軍鶏鍋

国産鶏の活性化と質の向上新分野に挑戦する原動力

 老舗の伝統を守りつつも新たな分野に挑戦をし続ける山田氏。名古屋駅にプロデュースした「とり五鐵」は関わりはじめて5年、売上も好調だ。また11月下旬から販売されているコンビニエンスストアと共同開発した鳥料理のお弁当シリーズも注目されている。


集客、街の文化を守ることどちらも大事にしていく

 生まれも育ちも日本橋人形町、好きな場所を聞くとやっぱり人形町周辺だ。「みんなが顔見知りのいい街。子ども時代に遊んだ水天宮さんや堀留公園は、今でも好きな場所です」変わりゆく日本橋については「今までどう集客するかを考えることが多かった。もちろん集客も大事ですが、でも街の文化を損なっては何にもならない。だから街の文化を守りながら、うまくつながるイベントなどを考えたい」と話す。
 日本橋地区の活性化イベントや老舗コラボレーション弁当など、多くのアイデアをカタチにしてきた山田氏、次の企画も考案中だ。
「2年後ぐらいに面白いイベントを仕掛ける予定です」と笑った。

最高級のみりんや醤油でつくられた贅沢な割り下を使って鶏肉をクツクツと煮る。溶き卵をサッと流し入れて火が入りすぎないようにタイミングをはかって仕上げていく
DATA

鳥料理 玉ひで
東京都中央区日本橋人形町1-17-10
☎ 03-3668-7651
www.tamahide.co.jp/