株式会社にんべん 代表取締役社長 髙津克幸 氏

2010年11月号【創刊号】

~創業300余年、新たなる挑戦をし続ける『にんべん』~

 日本橋に縁が深い方々にご登場いただく「 日本橋 福徳塾」。記念すべき第1回は、日本橋に創業して300余年、株式会社にんべん 代表取締役社長である高津克幸氏です。新しい価値創造へと挑み続ける高津氏が“にんべん”の発想力の源、新しい取り組み、日本橋への想いなどを語ります。


創業以来貫いてきた、ポリシーや価値観

 1699年(元禄12年)日本橋に創業し、1720年(享保5年)、現在の日本橋室町に本店を構えた「にんべん」。初代社長・髙津伊兵衛は、「現金掛け値なし」という現金販売を実践します。相手を見て価格を変えたり、掛け売りを行うことが多かった時代に、この「正しい価格をお客様に提示する」という画期的な方針は、多くの人々から支持されました。「にんべん」の成功やこだわりについて、代表取締役社長・髙津克幸氏は、以下のように語っています。
「『にんべん』は、現金掛け値なしの方針や新しい価値を提案するという考えを、創業以来貫いてきました。その上で時代の流れを汲み、現場からお客様の要望を吸い上げる…それが発想の原点です。そこから、鰹節マーケットを拡大させた『フレッシュパック』、『つゆの素』やフリーズドライ商品、さまざまなヒット商品が誕生しました」

髙津克幸 氏 青山学院大学卒業後、1993年に株式会社髙島屋横浜店入社。96年に髙島屋を退社して株式会社にんべん入社。商品部、営業部、総務部、副社長などを経て、2009年4月に代表取締役社長就任。
 

商品リニューアルで新しい価値を生む

 「にんべん」では、既存商品から“新しい価値”が生まれることも多いのだとか。髙津氏自身が手掛けた「江戸レッシング~煎り酒~」は、江戸時代の調味料「煎り酒」をリニューアルした商品です。お客様からの「『煎り酒』の使い方がわからない」という声を反映させ、「江戸レッシング」として新発売しました。「江戸時代にこんな美味しい調味料があったのか」と評判も上々で、本店をはじめ、江戸東京博物館でもお土産としてよく売れているのだそうです。
 また、2000年にはインターネットでの通販もスタート。開始当初は月20~30万円だった売上げも、今では3000万円へと大きく成長しました。「新しい販売チャンネルの拡大により、ご年配の方だけではなく、若い世代からもギフト商品の需要が増えたことは嬉しい限りです」と髙津氏。老舗ブランドにあぐらをかかず、新しい価値を提案し続ける姿勢は、13代を経た今でもしっかりと引き継がれています。

江戸時代中期に醤油が普及するまで一般的に使われていた調味料「煎り酒」。こだわりの素材を使用して古来の味を表現した「江戸レッシング」

「日本橋だし場」で仕掛ける日本食の魅力

 今秋から、「にんべん」の店舗は「COREDO室町1」へと移転。同店舗では、「だしバー」なる新展開も予定しています。こちらでは、店舗でとった“だし”で作る味噌汁やスープ、ドリンク、さらに汁ものだけではなく、おにぎりやお弁当など多彩なメニューを検討しているそうです。髙津克幸氏いわく、「本物の鰹だしのおいしさを知っていただくとともに、“一汁三菜(いちじゅうさんさい)”という健康バランスのよい日本古来の食事の良さを、多くの人に伝えていきたいと考えています」とのこと。
 食育活動にも力を入れる「にんべん」。新店舗でも、日本の食文化の魅力をさまざまなかたちで見せてくれることでしょう。

木を組み合わせてつくられた鰹節削り器。かつお節を削ると削りたての良い香りがあたりにフワッと広がる

週5日から週7日愉しめる日本橋へと変えていく

 変わりゆく日本橋について、髙津氏に思いをうかがってみました。「幼いころは、休日も祖母と一緒に『白木屋(1662年~1967年まで続いた老舗呉服店・百貨店)』に出掛けていました。そんな風に、日本橋には週5日から週7日愉しめる街になって欲しい。観光客や若い人たちが訪れる、にぎやかな街にしていきたいです」
 最後に、一番好きな日本橋景について聞いてみたところ、「日本銀行本館から日本橋三井タワーのあたりは、新旧ビルの織りなす雰囲気が好きです。日本橋川の船上から見る『日本橋』をはじめ、さまざまな『橋』の光景も魅力的です」と答えていただきました。

DATA

にんべん本店
東京都中央区室町2-2-1 COREDO室町1 1階
☎ 03-3241-0968
www.ninben.co.jp