思わずにっこり和のお菓子

四季によって育まれた日本の繊細な感性とともに、受け継がれてきた和菓子。折々の行事やお茶の席に欠かせない和菓子は、とても身近な存在でありながら、知れば知るほど奥が深いです。今号では、日本橋に数多くある和菓子店の中から、餡好きにたまらない和菓子、職人技の光る生菓子、これからが旬の桜餅をご紹介します。

2017年03月 【第77号】

基本は〝餡〟にあり

和菓子の材料は、大きく豆類、粉類、砂糖類に分けられる。
特に豆類からつくられる〝餡〟は和菓子の基本といわれ、作り方によってさまざまな種類がある。

榮太樓總本鋪『名代金鍔』(なだいきんつば)

創業200年の歴史を持つ榮太樓總本鋪は、金鍔を日本橋の屋台で売ったのが始まり。刀の「鍔(つば)」をかたどった丸い形が特長で、小麦生地は透けるほど薄い。これは熟練の職人が一つひとつ手包みしているからこそ成せる技。餡は小豆を適度に渋抜きし、じっくり蜜漬けした後、丁寧に炊き上げるだけあって、印象強く奥深い味わい。1個200円。※3/1~4/30まで春季限定の『桜金鍔』も販売予定。

榮太樓總本鋪
東京都中央区日本橋1-2-5
☎ 03-3271-7785
9:30~18:00
日曜・祝日休
www.eitaro.com

清寿軒『小判どら焼き』

手間暇惜しまず、餡も惜しまない清寿軒。特に七代目が考案した『小判どら焼き』は、小判型の皮1枚でたっぷりの餡をくるむ形で、ひと口目から絶妙な甘さの餡が口いっぱいに広がる。使う材料はすべて純度の高いものにこだわり、餡も豆をつぶさないよう機械ではなく手で練っている。夕方前に売り切れることもあるので、お早めに。1個税込180円。

清寿軒
東京都中央区日本橋堀留町1-6-1
☎ 03-3661-0940
9:00~17:00(どら焼きが売り切れ次第終了)
土・日曜・祝日休
seijuken.com

重盛永信堂『人形焼』

人形焼といえば日本橋人形町。今年、創業100周年を迎える重盛永信堂は、極薄の皮に北海道十勝産の小豆を使ったこし餡がぎっしり詰まっているのが特長。こし餡は比較的水分量が多いので、皮もしっとりとした味わい。1個税込130円。そのほか、粒餡の『つぼ焼』、白餡の『登り鮎』があり、気分で選べるのも嬉しい。

重盛永信堂
東京都中央区日本橋人形町2-1-1
☎ 03-3666-5885
9:00~20:00(土・日曜・祝日~18:00)
日曜休(戌の日、大安は営業し、月曜休)
www.shigemori-eishindo.co.jp

壽堂『黄金芋』

白いんげん豆の白餡に卵黄を混ぜた黄身餡がたっぷり詰まった『黄金芋』は、明治30年代に壽堂が考案し、100年以上愛され続けているお菓子。焼き芋そっくりの形ながら、芋類はまったく使っていない細工菓子でもある。表面にまぶされたニッキは、高温で焼くことでまろやかな風味へと変化し、ほっくりとした黄身餡の絶妙な甘さを引き立てる。1個 税込200円。

壽堂
東京都中央区日本橋人形町2-1-4
フリーダイヤル 0120-480-400
9:00~18:30(日曜・祝日~17:30)
無休
www.eitaro.com

日本橋で"餡"食べ歩き

甘味処 初音の持ち帰り用『小倉あんみつ』(税込750円、店内では税込730円)。別添えで黒みつか、白みつが選べる。

 今回、"餡"が決め手の商品を扱う和菓子店を調べてみて、その多さに驚いた。人形焼だけでも左で紹介した「重盛永信堂」のほかに、「板倉屋」、「人形町亀井堂」、「紀文堂」の名が挙がる。どら焼きに至っては、行列の絶えない「うさぎや」をはじめ、模様が個性的な虎家喜の「玉英堂」、「彦九郎」に、独創的な「日本橋日月堂」のほか、地域密着型でひっそりと営む隠れた名店まである。
 さらに、羊羹の「とらや」の直営店もあり、たい焼きの「柳屋」や、多彩な品揃えの「三原堂本店」、「江戸甘味處 水天宮つくし」など、枚挙に暇がない。 また、和菓子店ではないが、"餡"好きなら「甘味処 初音」も忘れてはいけない。こちらでは、あんみつ、おしるこ、ぜんざい、煮あずきなど小豆を使ったメニューが驚くほど豊富なのだ。
 ぜひ日本橋を散策しながら、さまざまな"餡"を堪能してみてほしい。

【豆知識 一】"餡"は栄養満点!
原料となる小豆には、抗酸化作用のあるポリフェノールをはじめ、体内では合成されない9種類のアミノ酸を含むなど栄養が豊富。

【豆知識 二】おしることぜんざいの違い
関東の場合、おしるこは粒餡(田舎しるこ)と、こし餡(御膳しるこ)の2種類があり、汁気が多い。ぜんざいは汁気の少ない濃い餡を使うのが主流。

【豆知識 三】ハレの日には"餡"を
赤い小豆は、古来より魔を祓う"陽力"がある食べ物といわれ、ハレの日や縁起担ぎには欠かせない。赤飯をはじめ、鏡開きのおしるこや、春のぼたもち、秋のおはぎなど。

職人技が光る生菓子

繊細な感性と表現力で、形づくられる季節の生菓子。
日本橋には工場や職人を抱えた店舗が多く、毎日違う生菓子を楽しめるといっても過言ではない。

長門『菜種きんとん』、『雛まつり』

江戸時代、徳川家に菓子を献上していた長門は、享保年間(1716~1735年)創業の和菓子店。季節の生菓子は常時8種ほどが並び、2週間ごとに少しずつ入れ替え、四季のうつろいを伝えている。『菜種きんとん』は早春の色合いがまぶしいきんとん餡。『雛まつり』は2層の色合いが美しい口どけのやわらかな練り切り。各税込350円。

長門(ながと)
東京都中央区日本橋3-1-3
☎ 03-3271-8662
10:00~18:00
日曜・祝日休
nagato.ne.jp

鶴屋吉信東京店『福桜』

京菓子の伝統を200年以上にわたり受け継ぐ鶴屋吉信。東京店では、職人がその場で生菓子をつくってくれる菓遊茶屋(カウンター席)を設けている。『福桜』はそこでいただける生菓子の一つ。京都独自の素材であり、熟練の技が求められる"こなし"製で、上品な味わいの白餡を使用。出来立ての風味を楽しんで。『お抹茶と季節の生菓子』税込1,296円。

鶴屋吉信東京店
東京都中央区日本橋室町1-5-5 コレド室町3 1階
☎ 03-3243-0551
10:30~20:00(L.O.19:30)、(ショップ10:00~21:00)
元日休
www.turuya.co.jp

ときわ木『光琳の桜』、『さわらび』

明治43年(1910年)創業のときわ木は、路地にひっそりと暖簾を掲げる名店。昔ながらの三段の木箱を並べて、お菓子の見本をお披露目する販売方法は、訪れた客をわくわくさせてくれる。満開の桜を模した『光琳の桜』は、口に入れた瞬間ほろりと溶ける練り切り。くるりとした芽の輪郭が可愛らしい『さわらび』は、春の訪れを感じながら味わいたい。各税込310円。

ときわ木
東京都中央区日本橋1-15-4
☎ 03-3271-9180
9:30~17:30
土・日曜・祝日休

【豆知識 四】生菓子、半生菓子、干菓子
和菓子は、できた直後の水分量によって3つに分類される。覚え方としては生菓子がしっとりした感触のもの、半生菓子が最中などの外側が乾いていて中がしっとりしたもの、干菓子は落雁、飴など乾いたもの。

【豆知識 五】生菓子の保存方法
ほとんどの生菓子は一定の期間であれば冷凍庫で保存できる。コツは素早く冷凍すること。常温で2~3時間あれば解凍できる。ただし、解凍後は劣化が早いので、できるだけ早く食べよう。

サクラサク、桜餅

待ち遠しい春を先取りして、日本橋三越本店で3月15日より開催される"江戸桜祭り"の中から桜餅コレクションをご紹介。春限定の味覚をぜひ食べ比べて。

青柳正家『桜もちdip』

美しい菊最中で知られる青柳正家の桜餅は、桜葉を散りばめた道明寺餅に、粒餡をディップしていただくスタイル。家族での団欒や、オフィスの差し入れなどに。5個 税込864円。

日本橋三越本店 本館地下1階 菓遊庵
(毎週金曜11時頃入荷)

しろ平老舗『近江しょこら-SAKURA-』、旬月 神楽『夜桜』

独創性あふれる桜餅たち。写真は3月15日(水)~21日(火)の限定販売。
(左)『近江しょこら-SAKURA-』1棹 税込1,296円(水・木曜に販売)
(右)『夜桜』1個 税込216円(土~火曜に販売)

日本橋三越本店 本館地下1階 自遊庵

江戸東京味技めぐり展 桜茶屋
3月22日(水)~26日(日) 日本橋三越本店 本館7階 催事会場

東京の名店が一堂に会する「江戸東京味技めぐり展」。そこでは『長命寺桜もち』のやまもとをはじめ、各地の桜餅が日替わりで味わえる。関東風の"長命寺"、関西風の"道明寺"をはじめ、個性的な桜餅も必見。

やまもと『長命寺桜もち』

享保2年(1717年)に考案されたやまもとの『長命寺桜もち』。一つひとつ手焼きした小麦粉製の薄皮で餡を挟み、塩漬けにした大島桜の葉で包んでいる。6個入 税込1,350円。

※3/23(木)、24(金)は、本館地下1階 菓遊庵でも11時より販売

都内有名店の桜餅が日替わりで登場!

1. 3月22日(水) 榮太樓總本鋪
2. 3月23日(木) 銀座 清月堂本店
3. 3月24日(金) 花園万頭
4. 3月25日(土) とらや
5. 3月26日(日) 浅草 梅園
6. 3月27日(月) 青柳正家
※各日11時より販売

【豆知識 六】関東の"長命寺"と関西の"道明寺"
どちらも餡の入った生地を桜の葉で包むのは同じだが生地が異なる。長命寺は、水で溶いた小麦粉を薄く焼いたもの。道明寺は、蒸したもち米を干して粗めにひいた道明寺粉を饅頭状にする。

【豆知識 七】桜の葉、食べる?
桜の葉は塩漬けにされることで芳香成分を生む。葉ごと食べるかどうかは個人の好みだが、大きな葉を2~3枚使う『長命寺桜もち』のやまもとは、香りだけ楽しみ、外すことを薦めている。