変わりゆく日本橋

3月20日(木)、日本橋室町に2つの商業施設がオープンします。
新しい賑わいが生まれ、街並みも大きく変わろうとするいま、江戸時代から現在までの移り変わりを改めて振り返ります。多様な文化を受け入れ、発展してきた日本橋の魅力を感じてみてください。

2014年03月 【第41号】

江戸東京博物館 館長・竹内誠さんインタビュー

江戸時代に五街道の起点に定められ、大いに賑わった日本橋。現在までどのように発展し、これからどう変わっていくのか──江戸の歴史・文化に精通し、自身も日本橋で生まれ育ったという竹内誠さんに話をうかがった。

江戸東京博物館 館長・竹内誠さん

江戸東京博物館 館長・竹内誠さん 1933年、日本橋人形町生まれ。東京教育大学大学院博士課程修了。専攻は江戸文化史、近世都市史で、歴史や文化に関するさまざまな機関の要職を歴任。1998年より現職となり、2012年には中央区名誉区民に。

百万都市に成長し
文化の中心となった江戸
都市江戸の歴史は徳川家康の入城にはじまります。そして家康が将軍になって以降、街の整備が急速に進められました。中期には人口が100万人に達し、当時、世界的な大都市と言われていたパリ、ロンドンをはるかに凌ぐ規模にまで成長したのです。
人口増加を加速させたのは参勤交代制度で、各地の大名は国元だけでなく江戸にも藩邸を持つようになり、武家人口が急増しました。彼らが生活するための需要に応える形で商人・職人が集まり、巨大都市へと発展しました。
人とともに各地の文化も持ち込まれ、開府から150年経った頃には独自の"江戸文化"も出来上がってきました。そして文化の中心が上方から江戸へ移る逆転現象"文化の東漸(とうぜん)"が起こります。錦絵や江戸歌舞伎なども新たに誕生し、人々を楽しませていました。

人、物、情報が集い
江戸の発展を牽引した日本橋
こうした経済、文化の中心を担ったのが日本橋です。五街道の起点であり、江戸城に続く日本橋川が流れているため、物流の拠点として全国からさまざまな物資が集まり商店が増えていきます。ツケが当たり前だった当時、"現金掛け値なし"を看板に掲げた大店、越後屋呉服店も日本橋にあります。金貨を鋳造する"金座"が置かれ、金融の街としても機能するようになりました。


江戸文化が花開いた頃、"江戸っ子"という言葉も生まれます。下町で生まれ育った人々の気質を象徴する言葉ですが、中でも日本橋がいかに特別な街だったか、戯作者の山東京伝は、著書『通言総籬(つうげんそうまがき)』の中で「江戸っ子の根性骨(ねおいぼね)、万事に渡る日本ばしの真中から......」と記しています。当時、日本橋・京橋・神田地域だけが下町と呼ばれていましたが、中でも日本橋が象徴的であったことがうかがえます。 そして日本橋は、海外の情報を国内に向けて発信する場所でもありました。オランダ商館長の定宿である長崎屋があったため、ここで蘭学が学ばれていました。出版社もあり、「解体新書」をはじめとする西洋医学の本が次々と日本橋から出版され、蘭学が確立されていったのです。
江戸後期の経世論家、林子平が自身の著書の中で「江戸日本橋の水は英京ロンドンのテームズ河に通ず」と書いているのも興味深いですね。本来の意味としては、国防への警告を発しているのですが、なぜ"日本橋の水"と表現したのか?日本橋が海外に通じていたという背景があったからではないかと、私は考えています。

文化と時間を繋ぐ これからの日本橋
蘭学をはじめ、西洋建築が多いことからもわかるように海外文化を積極的に受け入れてきた日本橋ですが、同時に伝統を守り続ける街でもあります。「日本橋」の橋柱の字は幕府最後の将軍、徳川慶喜の筆によるもので、江戸時代の面影を残しています。柱には五街道の起点である象徴として一里塚の松と榎がデザインされています。
このように、和洋文化、江戸と現代を繋ぐ日本橋で、私がいま注目しているのは"信仰と娯楽"です。浅草など江戸時代の盛り場を見てもわかるように、賑わいのある場所にはこの2つが存在します。日本橋にはさまざまな寺院・神社がありますが、今秋には古くから鎮座していたという福徳神社も再興されるので、さらなる賑わいが期待できることでしょう。

東京都江戸東京博物館
東京都墨田区横網1-4-1  TEL 03-3626-9974(代)
www.edo-tokyo-museum.or.jp

【物流】日本初の百貨店が生まれ、いまも賑わう中央通り

東都名所駿河町之図」歌川広重(初代)画/東京都江戸東京博物館蔵

江戸時代の越後屋呉服店の様子。左右の通りが中央通りに当たり、現在は右手に三井本館、左手に日本橋三越本店の本館がある。その間の道路は「江戸桜通り」と命名されている(「東都名所駿河町之図」歌川広重(初代)画/東京都江戸東京博物館蔵)。

※イメージパース

※イメージパース

3/20(木)オープン 日本を賑わす日本橋 コレド室町2/コレド室町3日本橋の歴史、文化を活かし新展開を図る地元の老舗をはじめ、全国の"食"やこだわりの"モノ"を提供する店舗、夜遅くまで賑わうダイニング・バル、ライフスタイル提案型の雑貨店など、全83店舗が出店。暖簾や行燈をモチーフにした外装デザインで通りも整備され、この春、日本橋が歩いて楽しい街並みに生まれ変わる。

日本橋三越本店

日本橋三越本店 1673年、呉服店「越後屋」として創業した日本初の百貨店。現在のルネサンス様式の建物は1914年竣工で、同店のシンボルであるライオン像とともに今年100周年を迎える。本館中央ホールの天女像、美しい音色を奏でるパイプオルガン、化石が確認できる大理石といった店内の設備や装飾も必見。東京都選定歴史的建造物に指定。

東京都中央区日本橋室町1-4-1
TEL 03-3241-3311(代)
www.mitsukoshi.co.jp

日本橋髙島屋

日本橋髙島屋 江戸時代末期に創業し、日本橋に店舗を構えたのは1933年。昨年80周年を迎えた建物は、重厚な西欧の歴史様式に和風建築の意匠が随所に見られる。ガラスと真鍮の蛇腹ドアのエレベーターは半手動式で、手動で操作する案内係は創建時から変わらない同店の顔の一つ。2009年には百貨店建築として初めて国の重要文化財に指定された。

東京都中央区日本橋2-4-1
TEL 03-3211-4111(代)
www.takashimaya.co.jp/tokyo

コレド日本橋

コレド日本橋 2004年に誕生した、衣、食、住、美など、女性に人気のお店が揃ったショッピング施設。ガラスとアルミからなる緩やかな曲面で構成される建物は、船の帆がイメージされており、さまざまな賞を受賞。低層階は館内の賑わいが通りに伝わるガラス張りのつくり。夜になると店舗の照明が外にこぼれ出し、街に彩りを添える。

東京都中央区日本橋1-4-1
www.coredo.jp

コレド室町

コレド室町 "日本を賑わす日本橋"をテーマに、2010年にオープン。日本橋の伝統と新しさが融合した店舗構成で、鰹節専門店「にんべん」や刃物専門店「日本橋木屋」といった創業数百年の老舗や、新業態の人気店が揃う。日本古来の茶室や古い家屋の風合いを表現した内装は、日本の風土や伝統の中に"新しさ"を感じられるデザインとして注目。

東京都中央区日本橋室町2-2-1
www.coredo.jp

YUITO/YUITO ANNEX

YUITO/YUITO ANNEX 2010年にオープンした、大人のための商業施設。匠の味と一流のサービスを提供する飲食店をはじめ、こだわりの商品を販売する物販店が揃う。本格的なライブも楽しめる「XEX日本橋」は28時まで営業しており、寛ぎの夜を過ごすことができる。江戸や歌舞伎にちなんだ各種イベントも定期開催されている。昨年にはYUITO ANNEX開業。

東京都中央区日本橋室町2-4-3
/東京都中央区日本橋室町2-4-1
TEL 03-3277-8200
www.yuito-nihonbashi.com

【文化】全国から集まり発展した文化

東都名所二丁町芝居繁栄之図」歌川広重画/東京都江戸東京博物館蔵

芝居小屋やそれらを取り巻く茶屋などが集まり、大変賑わっていた頃の堺町、葺屋町(現・日本橋人形町)の様子 (「東都名所二丁町芝居繁栄之図」歌川広重画/東京都江戸東京博物館蔵)。

※イメージ写真

※イメージ写真

3/20(木)オープン 日本橋初のシネマコンプレックス
TOHOシネマズ 日本橋(コレド室町2)
全9スクリーン、約1,800席の規模を誇る、日本橋初のシネマコンプレックス。独自規格によるラージスクリーン"TCX(TOHOCINEMAS EXTRA LARGE SCREEN)"と、3次元的な表現が可能な革新のシネマ音響"ドルビーアトモス"が都内で初めて導入される。上質な映画を、最高品質の環境で楽しむことができる。

日本橋三井ホール

日本橋三井ホール コンベンションや展示会などのビジネスから、音楽ライブや演劇などのエンターテインメントまで利用可能な大型多目的ホール。コレド室町の5階にあり、「三越前駅」直結という利便性の高い立地にある。日本橋の新しい文化情報発信拠点として、「ECO EDO 日本橋」や「TOKYO KIMONO WEEK」といった地域イベントにも活用されている。

東京都中央区日本橋室町2-2-1 コレド室町5階
TEL 03-5200-3210
www.nihonbashi-hall.jp

三井記念美術館

三井記念美術館 国の重要文化財に指定されている三井本館内にある美術館。江戸時代以来300 年におよぶ三井家の歴史の中で収集された美術工芸品を収蔵、展示。2~3カ月ごとにテーマを変え、展覧会が行われている。オリジナル商品を販売するミュージアムショップや、季節の御膳、和テイストが楽しめるミュージアムカフェも併設。

東京都中央区日本橋室町2-1-1
ハローダイヤル 03-5777-8600
www.mitsui-museum.jp

明治座

明治座 初代・市川左團次が座元となり誕生し、140年の歴史を誇る東京で最も歴史ある劇場。歌舞伎や新派の殿堂として日本の演劇文化を牽引し、いまでは時代劇、コンサート、演歌歌手の座長公演なども上演されている。各階のロビーに展示されている絵画の鑑賞や、折詰弁当・食堂での食事、売店での買い物など、芝居以外の楽しみも。

東京都中央区日本橋浜町2-31-1
TEL 03-3660-3939(10:00~17:00)
www.meijiza.co.jp

【物流】物資が集まった水運・陸路の交差点

東都日本橋風景」昇亭北寿画/東京都江戸東京博物館蔵

陸上交通があまり整備されていなかった江戸時代、物資供給に欠かせない存在だった日本橋川。たくさんの舟が行き交い、荷揚げしている様子が描かれている(「東都日本橋風景」昇亭北寿画/東京都江戸東京博物館蔵)。

「日本国道路元標」 日本橋船着場

写真上/日本橋の橋上、道路の中央部に1972年に埋め込まれた「日本国道路元標」。レプリカは日本橋北詰西側の広場に展示されている。江戸幕府により日本橋が五街道の起点に定められた1604 年から現在も、道路の中心としての役割を担っている。

写真下/日本橋が架橋百周年を迎えた2011年、橋のたもとに完成した「日本橋船着場」。さまざまな船がツアーを実施し、年間4~5万人が利用。2013年9月には利用者が10万人を突破し、多くの人が川めぐりを楽しんでいる。

【金融】名建築も楽しめる金融の中心地

東亰海運橋第一国立銀行の全図 并近円の市中一覧の図

現在の日本橋兜町に設立された、初の国立銀行「第一国立銀行」(「東亰海運橋第一国立銀行の全図 并近円の市中一覧の図」歌川虎重画、永嶋辰五郎画工/東京都江戸東京博物館蔵)。現在もこの界隈には金融機関が集中して存在する。

日本銀行

写真提供:日本銀行

日本銀行 1882年、日本銀行条例の制定を受けて設立された日本銀行。当初は永代橋際にあったが、江戸時代に両替商が軒を連ねていた関係で金融機関が集まっていた現在の場所に移転。ベルギーの中央銀行をモデルに約5年半の歳月を経て完成したのが現在の本館で、1974年には国の重要文化財に指定。常設の「本店見学」( 要予約)に加え、秋には広報イベント「にちぎん体験」を実施している。

東京都中央区日本橋本石町2-1-1
TEL 03-3277-2815(本店見学受付)
www.boj.or.jp