日本橋発祥を訪ねる

日本橋が五街道の起点に定められた慶長9年(1604年)以降、この街には全国各地から物資、人が集まり、さまざまな産業、文化が誕生しました。今号では、その歴史を“日本橋生まれ”という視点からご紹介します。現在の街を形づくった軌跡をぜひ訪ねてみてください。

2013年06月 【第32号】

海産物の老舗連なる"街の顔"のルーツ【江戸時代初期/日本橋のたもと】

「江都名所日本ばし」歌川広重画

江戸時代の魚市場の様子を描いた錦絵(「江都名所日本ばし」歌川広重画/中央区立郷土天文館蔵)。

乙姫広場にある「日本橋魚市場発祥の地」記念碑。

乙姫広場にある「日本橋魚市場発祥の地」記念碑。

日本橋魚市場 江戸幕府の開府後、日本橋の街は徳川家康により整備が進められた。その一環として摂津(大阪)の漁民が佃島へ移り住んで幕府へ魚を納めていたが、余った魚は街中でも売られるように。これが日本橋魚市場のはじまりといわれる。その後、乾物や干物、魚を加工するための刃物、河岸で働く人のための食事処なども誕生して街はおおいに賑わい、最盛期には魚市場だけで一日に千両ものお金が動いたと伝えられる。魚市場自体は関東大震災で焼失して築地へ移転したが、海産物に関わるお店のいくつかは日本橋に残り、江戸から続く老舗として現在も商いを続けている。

「日本橋魚市場発祥の地」記念碑
東京都中央区日本橋室町1-8 乙姫広場
取材協力:中央区立郷土天文館

近代化への大きな足がかり【明治4年(1871年)/現・日本橋郵便局】

平成25年(2013年)年賀郵便元旦配達出発式の様子

平成25年(2013年)年賀郵便元旦配達出発式の様子。各時代の服装の局員が登場し、式の後は近隣店舗へ年賀状を手渡しで配達しに行く。

左/昭和37年に建てられた前島密の胸像。1円切手の肖像画にもなっている。 右/前島密像と日本橋をモチーフにした日本橋郵便局の風景印。

左/昭和37年に建てられた前島密の胸像。1円切手の肖像画にもなっている。
右/前島密像と日本橋をモチーフにした日本橋郵便局の風景印。郵便窓口(夜間はゆうゆう窓口)で受付している。

郵便 いまでは欠かせない生活構造の一部となっている郵便制度を確立したのは、"近代郵便の父"として知られる前島密。交通の利便性に優れた日本橋の地に駅逓司(後の郵政省)と郵便役所(現在の東京中央郵便局)が置かれ、ここから近代的な郵便事業がスタートした。現在この地には「日本橋郵便局」があり、ここ数年の元旦には来賓を招いての大規模な"年賀郵便元旦配達出発 式"が行われているほか、ご当地消印である"風景印"の図案には前島密像と日本橋を使用。発祥の地ならではの催しやサービスを展開している。

日本橋郵便局
東京都中央区日本橋1-18-1
TEL 03-3277-6807
郵便業務営業時間...
 郵便窓口 平日9:00~19:00、土曜9:00~17:00
 ゆうゆう窓口 0:00~24:00

金融街としてのはじまり【明治6年(1873年)/現・みずほ銀行兜町支店】

兜町界隈の土地を下賜(かし)された三井組が建設した和洋折衷の建物。

兜町界隈の土地を下賜(かし)された三井組が建設した和洋折衷の建物。後に第一国立銀行として使われた(「東亰海運橋第一国立銀行の全図并近円の市中一覧の図」歌川芳虎画/渋沢史料館蔵)。

日本橋と富士山が描かれた国立銀行紙幣、五円券の裏面(渋沢史料館蔵)。国立銀行は明治16年まで紙幣の発行権を持っていた。

日本橋と富士山が描かれた国立銀行紙幣、五円券の裏面(渋沢史料館蔵)。国立銀行は明治16年まで紙幣の発行権を持っていた。

第一国立銀行経済、文化の中心地として栄えた日本橋地域は、明治に入ってから金融の中枢としての機能も担うようになる。江戸時代、各藩でバラバラだった金融経済を統一するために国立銀行条例が制定され、三井組と小野組を中核にした初の国立銀行が兜町に設立。後に実業界の有力者となる渋沢栄一が総監役を務めた。その後、周辺には東京証券取引所も誕生し、金融センター街へと発展。現在、同地にはみずほ銀行兜町支店があり、「銀行発祥の地」の銘板が設置されている。

「銀行発祥の地」記念碑
東京都中央区日本橋兜町4-3 みずほ銀行兜町支店
取材協力:渋沢史料館

役割を変えて復活した江戸文化 【明治3年(1870年)/日本橋のたもと】

人力車ツアー

ロイヤルパークホテルでは、人力車ツアーとして2コースを設定(2名60分15,750円.)。希望により個別のコースを組むことも可能。

人力車東京府(現・東京都)から人力車の製造・営業許可を受けた和泉要助らが、日本橋から初めて人力車を走らせたのは明治3年のこと。小回りが効き手軽だったため、瞬く間に普及した。その後、交通手段としての役目を終えて一度は姿を消したが、10年ほど前から観光資源として注目を集め、日本橋では「くるま屋日本橋」により2004年に復活。地元との連携に積極的な「ロイヤルパークホテル」と共に、"人力車"を通じて日本橋の魅力と江戸文化を紹介している。

ロイヤルパークホテル
東京都中央区日本橋蛎殻町2-1-1
TEL 03-3667-1111 ※人力車の利用は事前予約制
www.rph.co.jp
取材協力:くるま屋日本橋(www.kurumayanihonbashi.com/

独特の語り口調で聞く人を魅了【元禄末年(1700年)頃/現・薬研堀不動院】

昭和57年から薬研堀不動院で行われている奉納講談の様子右/境内にある「講談発祥記念之碑」

左/昭和57年から薬研堀不動院で行われている奉納講談の様子(毎月28日14:00~、無料)。8月には人間国宝・一龍斎貞水の納涼講談も(有料)。
右/境内にある「講談発祥記念之碑」。昭和59年に建立された。

講談 火除け地だった江戸時代の両国広小路には、屋台や見せ物小屋などが立ち並び、さまざまな文化が集まった。その中で誕生した「講談」は、張り扇で調子を取りながら、歴史ものをおもしろおかしく読み上げる日本の伝統話芸の一つ。庶民の身近な娯楽として親しまれ、明治にかけて興隆を極めたという。現在は薬研堀不動院がこの伝統を引き継ぎ、毎月28日には奉納講談を実施。巧みなリズムが生み出す臨場感のある語りを楽しむことができる。

薬研堀不動院
東京都中央区東日本橋2-6-8
TEL 03-3866-6220
www.kawasakidaishi.com/about/yagenbori.html

ここからはじまり、広がった 日本橋老舗生まれの食文化

いまなお続く老舗の多くは江戸時代に創業し、長い歴史の中で育まれた伝統を守りながらも、時代に合わせて新しい商品や業態をつくり出してきた。ここでは、日本橋で生まれ、現在も広く愛され続けているさまざまな食文化をご紹介。

『甘名納糖』

『甘名納糖』630円(170g)

甘名納糖初代榮太樓が、安価な金時大角豆(きんときささげ)を蜜で煮詰めて考案し、"甘納豆"の元祖となった。いまでも同じ原料、菓銘で販売されている(本店限定品)。

榮太樓總本鋪
東京都中央区日本橋1-2-5
TEL 03-3271-7785
営業時間...9:00~18:00
祝日休
www.eitaro.com


『早矢仕ライス』

『早矢仕ライス』1,000円

早矢仕(はやし)ライス明治時代、丸善の創始者・早矢仕有的が友人たちに振る舞った料理が原型。日本橋丸善のオープン時にメニューに登場し、いまでは種類も豊富に。

MARUZEN cafe'
東京都中央区日本橋2-3-10 日本橋丸善東急ビル3階
TEL 03-6202-0013
営業時間...9:30~20:30(L.O.20:10)
無休(元旦除く)
www.maruzen.co.jp


『玉露 玉潤』

『玉露 玉潤』2,100円

玉露宇治郷小倉の木下家で、山本山の六代目・山本嘉兵衛徳翁が発明。日本橋で販売をはじめると甘美な風味が評判となり、江戸名物の一つになった。

山本山
東京都中央区日本橋2-5-2
TEL 03-3281-0010
営業時間...10:00~18:00
無休(元旦除く)
www.yamamotoyama.co.jp


『天もり』

『天もり』1,450円

天ざる・天もり夏でも天ぷら蕎麦を美味しく食べるために、つけ麺状にしたメニューを考案。麺は蕎麦の実の芯だけを挽いたさらしな粉でつくられ、喉越しがよい。

室町砂場
東京都中央区日本橋室町4-1-13
TEL 03-3241-4038
営業時間...平日11:30~21:00(L.O.20:30)
土曜~16:00(L.O.15:30)
日曜・祝日休


『元祖親子丼』

『元祖親子丼』1,500円

親子丼軍鶏鍋の残った割下を卵でとじて、ご飯と共に食べるお客さまの姿を見た五代目の妻・とくが考案。『元祖親子丼』として、変わらぬ味で提供されている。

玉ひで
東京都中央区日本橋人形町1-17-10
TEL 03-3668-7651
営業時間...11:30~14:00(親子丼は13:00まで)
平日・夜17:00~22:00(L.O.21:00)
土日祝・夜16:00~21:00(L.O.20:00)
無休(夏季、年末年始の臨時休業あり)
www.tamahide.co.jp


『志乃多(6個入り)』

『志乃多(6個入り)』567円

いなり寿司「志乃多」歌舞伎の古歌にちなみ"志乃多"と名づけたのがはじまり。江戸時代から親しまれていたいなり寿司に創意工夫をこらし、初代店主・吉益啓蔵が売り出した。

人形町志乃多寿司總本店
東京都中央区日本橋人形町2-10-10
TEL 03-5614-9300
営業時間...9:00~19:00
無休
www.shinodazushi.co.jp


『「梅の花」味附海苔中缶』

『「梅の花」味附海苔中缶』5,250円

味附海苔明治天皇の京都行幸のお土産として、二代目・山本德治郎が海苔に味をつけることを創案し、開発。現在では『おつまみ海苔』といった関連商品も販売。

山本海苔店
東京都中央区日本橋室町1-6-3
TEL 03-3241-0290
営業時間...9:00~18:30
無休(元旦除く)
www.yamamoto-noriten.co.jp


『並六白飯弁当』

『並六白飯弁当』998円

折詰料理専門店魚市場の食事処で残った料理を包んで持ち帰ってもらったのがはじまり。三代目・樋口松次郎の代で、国内初の折詰料理専門店となった。
※詳細はこちら

日本橋弁松総本店
東京都中央区日本橋室町1-10-7
TEL 03-3279-2361
営業時間...月~金9:30~15:00
土・日曜・祝日9:30~12:30
無休(年始を除く)
www.benmatsu.com


誕生当初に提供されていた『御子様洋食』

誕生当初に提供されていた『御子様洋食』

お子様ランチ『御子様洋食』として、日本橋三越本店の食堂部主任であった安藤太郎が考案。いまでも「カフェ&レストラン ランドマーク」にて提供されている。

カフェ&レストラン ランドマーク
東京都中央区日本橋室町1-4-1 日本橋三越本店 新館5階
TEL 03-3241-3831
営業時間...11:00~19:00(L.O.18:30)
不定休(日本橋三越本店に準ずる)
www.mitsukoshi.co.jp


果物専門店

果物専門店初代が始めた葺屋町(現在の人形町)の「水菓子安うり処」が原点。三代目・大島代次郎が品質改良、輸入に力を注ぎ、果物専門店を創立した。

千疋屋総本店 日本橋本店
東京都中央区日本橋室町2-1-2 日本橋三井タワー1階
TEL 03-3241-0877
営業時間...9:00~19:00
不定休(日本橋三井タワーに準ずる)
www.sembikiya.co.jp


レプリカ

いまでもレプリカが店内に展示されている。

商品券鰹節と引き換えるために六代目が考案(現在の3,500円前後の価値)。銀製の薄板で、徳川時代末期に発行された商品券の中で最古とされる。

にんべん
東京都中央区日本橋室町2-2-1 コレド室町1階
TEL 03-3241-0968
営業時間...10:00~20:00
不定休(コレド室町に準ずる)
www.ninben.co.jp