お宝発掘日本橋

日本橋の魅力は、奥が深い。
実は老舗・名店の奥には、意外なお宝が眠っているのです。
江戸の大火や関東大震災、第二次世界大戦をくぐり抜けてきた博物学的価値のある品々。
それらは、さりげなく店内に展示されていたりします。
今回はそんな街に潜む歴史の証人たちを、ずらりと集めてみました。

2012年03月 【第17号】

商家の栄華を物語る千両箱

蓋の内側に小津の名が入った千両箱。

蓋の内側に小津の名が入った千両箱。

「己卯(きぼう)一番組紙問屋」の看板

「己卯(きぼう)一番組紙問屋」の看板。明治12年(1879年)に12軒の有力紙問屋で設立した己卯組は、日本初の和紙同業組合で、現存するのは同店のみ。

小津和紙 -創業承応2年(1653年)和紙専門店-

かつて日本では、障子や襖といった建具はもちろんのこと、行灯、傘、つづらなど数多くの生活用品に紙が用いられていた。紙衣(かみこ)や紙布(しふ)という衣料素材も普及していたという。江戸時代、小津清左衛門店(小津和紙の創業時の名)は江戸商人番付に常に名を連ねる大店であった。これは店で使用していた千両箱。当時、「千両箱」という言葉は金庫のような意味で使われており、形も大きさもさまざまだったとか。中には千両入らない小ぶりなものもあったが、これは入ったようだ。

東京都中央区日本橋本町3-6-2
小津本館ビル2階 小津史料館
TEL 03-3662-1184
営業時間...10:00~18:00
日曜休
www.ozuwashi.net

故郷に戻ってきた日本橋の擬宝珠

江戸期の擬宝珠。江戸東京博物館に展示されている1/2スケールのジオラマや日本橋1丁目の神輿に乗る擬宝珠は、これを摸してつくられたそう

江戸期の擬宝珠。江戸東京博物館に展示されている1/2スケールのジオラマや日本橋1丁目の神輿に乗る擬宝珠は、これを摸してつくられたそう。

黒江屋 -創業元禄2 年(1689 年)漆器店-

江戸開府から幕末まで、木造の日本橋は火事により何度も焼け落ちた。これはその頃、橋の欄干にあった擬宝珠(ぎぼし)で「万治元年戊戌年(1658年)9月吉日 日本橋御大工椎名兵庫」の刻印がある。側面が凹んでいるのは、落ちた時の衝撃によるものだろうか。なぜここにあるかといえば、戦後の混乱期、黒江屋を骨董品屋と間違えた来店客が持ち込んだから。時を経てふるさとに戻り、擬宝珠もさぞやほっとしているに違いない。

東京都中央区日本橋1-2-6 黒江屋国分ビル2階
TEL 03-3272-0948
営業時間...9:00~17:00
土・日曜・祝日休
www.kuroeya.com

日本初の裁ち鋏は人形町うまれ

うぶけや鍛造打刃物類

うぶけや鍛造打刃物類(中央区民有形民俗文化財)

名工・弥吉作の裁ち鋏。いまも使用できる

名工・弥吉作の裁ち鋏。いまも使用できる

うぶけや -創業天明3年(1783年)刃物店-

店内のガラスケースに収められているのは、江戸末期から昭和初め頃につくられた刃物類。着物が一般的な装いだった頃、布の裁断には刀のような刃物や和鋏が使われていた。中央の大きな鋏は洋裁用。築地の外国人居留地からの依頼で制作したのだという。日本初の裁ち鋏は、うぶけやで生まれたわけだ。そのほか、毛抜きや剃刀、火のしや焼きごてなども並ぶ。こうして見ると、刃物の歴史は日本の文化史であることが分かる。

東京都中央区日本橋人形町3-9-2
TEL 03-3661-4851
営業時間...9:00~18:00(土曜~17:00)
日曜・祝日休

江戸土産だった國芳の日本橋図

歌川國芳作「東海道五十三對・日本橋」。

歌川國芳作「東海道五十三對・日本橋」。

三人の美女が並ぶ「梅の魁(さきがけ)」も國芳の作品。流行の着物を競い合う姿が描かれている。いわば当時のファッション誌。

三人の美女が並ぶ「梅の魁(さきがけ)」も國芳の作品。流行の着物を競い合う姿が描かれている。いわば当時のファッション誌。
3/19まで期間限定展示

伊場仙 -創業天正18年(1590年)扇子・団扇専門店-

かつて伊場仙は浮世絵の版元だった。今でいう出版社のような存在で、歌川派の画家を数多く抱えていたという。「東海道五十三對」シリーズも伊場仙の企画によって生まれたもの。ここにある「日本橋」には、母が娘に、参勤交代をモチーフにした奴さんのかんざしを買い与える姿が描かれている。欄干には擬宝珠、その後ろに富士山と江戸城が見える。お江戸らしい風景だ。

東京都中央区日本橋小舟町4-1
伊場仙ビル1階ギャラリー
TEL 03-3664-9261
営業時間...10:00~18:00
土・日曜・祝日休
www.ibasen.com

精緻な古典柄を再現した型紙

:細なカッティングが美しい菊と流水の型紙。 使い勝手を考えて職人自ら手作りしている道具。右下:昭和初期、鎌倉・遊行寺の住職から贈られた書を染めた手ぬぐい(非売品)。

上:細なカッティングが美しい菊と流水の型紙。
左下:使い勝手を考えて職人自ら手作りしている道具。右下:昭和初期、鎌倉・遊行寺の住職から贈られた書を染めた手ぬぐい(非売品)。現在ロゴマークになっている「竺仙」の文字の下にはウィットに富んだ言葉が続く。ぜひ店頭で確かめて。
3/19まで期間限定展示

竺仙 -創業天保13年(1842年)浴衣・江戸小紋の店-

江戸好みの浴衣を守り続けている竺仙。長さ約6.6mの一枚板に張った生地に、約40㎝角の型紙を用いて藍で染め上げる「長板中形」という浴衣染めは、いまでは希少品だ。この菊と流水の浴衣柄は、型紙職人が手製の道具で丹念に切りおこした明治期の復刻版。すっきりとしたデザインで、江戸の粋を感じる。

東京都中央区日本橋小舟町2-3
TEL 03-5202-0991
営業時間...9:00~17:00
土・日曜・祝日休(4月~7月は土曜も営業)
www.chikusen.co.jp

明治期、船でイギリスへ渡った絵

「絹本着色 日本製菓子舗 榮太樓本店製造場略図」(複製)柴田眞哉作。(中央区民有形文化財)

「絹本着色 日本製菓子舗 榮太樓本店製造場略図」(複製)柴田眞哉作。(中央区民有形文化財)

創業時、店の玄関前にあった御影敷石。外側の枠組みは、当時の土間の大きさを表している。

創業時、店の玄関前にあった御影敷石。外側の枠組みは、当時の土間の大きさを表している。

榮太樓總本舗 -創業安政4年(1857年)和菓子店-

本店入ってすぐの壁に掲げられている「榮太樓本店製造 場略図」。明治18年(1885年)、ロンドン万国発明品博覧会に菓子や木型、道具を出品する際、つくり方を説明するために描かれたものだ(複製)。海外旅行が一大事だった時代に日英を船で往復した絵。羽織を着た当主、現在も販売している梅ぼ志飴、玉だれなどの制作工程が描かれていて興味深い。入口の床には、江戸から現代まで来店客を迎えてきた敷石も埋め込まれている。

東京都中央区日本橋1-2-5
TEL 03-3271-7785
営業時間...9:00~18:00
日曜・祝日休
www.eitaro.com

職人の心意気が詰まった細工楊枝

大正から昭和初期につくられた細工楊枝。

大正から昭和初期につくられた細工楊枝。

左:「鉄砲」をかたどったもの。技のいくつかは現代の職人へと継承されているが、これは今つくられていない。右:房楊枝には柔らかいハコヤナギが使用されている。

左:「鉄砲」をかたどったもの。技のいくつかは現代の職人へと継承されているが、これは今つくられていない。
右:房楊枝には柔らかいハコヤナギが使用されている。

さるや -創業宝永元年(1704年)楊枝専門店-

古来より上等とされてきた黒文字の樹を使用したさるやの楊枝。大正から昭和の初めにつくられた細工楊枝は、当時の名工が自らの技を追求した逸品だ。うなぎや船の櫂、扇などが繊細にかたどられ何とも愛らしい。房楊枝は江戸から明治期につくられたもの。歯ブラシのような役割を果たし、お歯黒にも使われていた。柄の平たい部分で舌の掃除もできる優れもの。

東京都中央区日本橋室町1-12-5
TEL 03-5542-1905
営業時間...10:00~18:00
日曜・祝日
www.nihonbashi-saruya.co.jp